Cemetery

※主人公:チャーミングな何様俺様天才(自称)様な人外説のある男(諸説あり)

うつくしくないかたちでもよかった

その夜は少し肌寒くて、俺は大和とぴったりとくっついて一枚の毛布にくるまっていた。体温の低い彼に俺の温度をわけるように強く抱きしめて首筋に顔を埋める。くすぐったそうな笑い声をもらす彼はなんだかいつもよりも随分と幸せそうだった。「大和」「ん?」「随分楽しそうだね」透明できらきらした瞳には俺が映っている。俺だけが。「そうだな」優しいくせにどこか突き放すようなあの笑みが浮かぶ。「しあわせだと思って」怖いくらいに、と目を伏せゆったりと息を吐くその姿にひどく嫌な胸騒ぎを覚えた。「お前に会えて良かった」これが最後みたいに悲しく、最期みたいに優しく笑うから、俺は何も言えずただその笑みを見つめ返すことしか出来なかった。そうして次目が覚めたときも隣に彼がいてくれるよう祈り抱きしめた。「ん、?」窓を強く叩く雨の音でふ、と目が覚めた。雨は好きじゃない。雨の日の部屋はひどく静かで、静かすぎてふと気づけば彼が消えてしまいそうで嫌なのだ。その嫌な冷たさを消すために大和を抱き締めようとして、そこに彼がいないことに気付いた。「大和?」キッチンを覗いても見えない姿に、ざわざわと胸の内側を不安が撫で上げる。昨日の彼の笑顔が脳裏を過ぎって血の気が引いた。まさか、だってしあわせだって昨日、そう言っていたではないか。ああ一体何処に、と不安に吐き気を感じながら狭い室内をぐるぐる探し回るけれど、何処にもその影はない。見つかったのはテーブルに置かれた『どうかお幸せに』と彼の綺麗な字で綴られた小さな紙切れ一枚だけ。震える手でそれを拾い上げ、これは夢なのではないかと強く握り締めた。異様に静かな部屋に雨音だけが煩く響く。息が上手く出来ない。俺は大和がいないと生きていけないと言ったじゃないか、息すら出来ないと言ったのに。「大和、」そうして俺は背後を落ちていく彼に気付きもせず、目を閉じるのだ。迫りくる現実に押し潰される覚悟も出来ぬまま。
rewrite:2022.03.25 | 「何もないからかなしくもない」の続き

夜を解剖する

ふと名前を呼ばれた気がして立ち止まった。振り返って見るけれど、薄暗い路には転々と外灯が灯っているだけで誰も見当たらない。「征十郎?」くん、と繋いだ手を引っ張られて視線を大和へと戻す。心配そうに眉を寄せて彼に何でもない、と首を振った。「ほんとに?」「ああ。ほら、早く帰ろう」何か言いたげな大和の手を今度はこちらが引いて歩き出す。きっと気のせいだろう、と先ほどのことを忘れるように緩く頭を振って会話へと戻った。なんてことないくだらない日常会話も彼とのものになると途端に大切なものになる。彼の見ているものを共有できるこの時間が、俺はたまらなくすきだった。楽しそうに笑いながらぽんぽんと言葉を飛ばす大和の横顔をちらりと見やった。くるくると感情のままに変わる表情を可愛い、なんて思っていれば、「―――」ふいにまた名前を呼ばれた気がした。ぞわりと悪寒が背を這う。「あ、」知っている。その感覚は何度も何度も体験したことがあるものだ。はっと振り返った先には不自然なほど黒いスーツを着た誰かが佇んでいた。こちらに背を向けたその“何か”は微動だにしない。す、と体温が下がっていく。体が震え出し、大和と繋いだ手に上手く力が入らない。息が詰まって苦しい。いつもそうだ、あれを見ると絞めつけられたように息が出来なくなる。「大丈夫だよ征十郎」ぎゅっと強く俺の手を握りそう言う大和はいっそ場違いなほど穏やかな顔をしている。「征十郎は俺が守るから、絶対大丈夫」いつだって心のままに煌めいている瞳が、今は冴え冴えと、まるでそれ自体が発光しているように不思議な輝きを放っているように見えた。「多分家まで憑いてくるから今日は泊まる」少し速足で歩く大和の言葉にまたゾッと背筋が冷える。振り返ることなど当然できない。「時々様子が変だったのは“ああいうの”のせいだったんだな」ちらりと後ろを見て「俺のもんに手出したらどうなるか、解らせてやろう」そう言って笑うその顔は、相手が哀れになるほど自信に満ち満ちていた。
2025.04.21 | 邪悪にぐるぐるしてないタイプの正統派な光属性寺生まれさん