生きてもないのに朝は来る


漠然と死ななければならないと思っていた。薄い膜のようなこれまた漠然とした影がひたりと張りつき出したのは一体いつからだろう。
わからない。わからない内に張り付いていた。気付けばもうそこにあって、でも最初の頃は全然、気にもしていなかった。
けれどいつからかなんとなく、どことなく息苦しい。どうにもその膜は僕が勝利を得る度に張りつき重なって、次第に分厚くなっていっているようだったのだ。
感覚が薄くなったのも、それが目に見えて厚くなってからだったような気がする。物事が全て希薄で、自分と何ひとつ関係のないところで起こっているように思えるのだ。
テレビの向こうや小説の中の出来事のように、まさしく対岸の火事。それに気付いたとき、ああもう駄目なのだと思った。漠然と死ななければならないと思った。
別に死んでしまいたいわけではないけれど、死んでしまわなければいけないのだ。それはちりちりと思考の端を焼き切っていき、そうして気付けば目の前に縄がぶら下がっていた。
はて、これはなんだろう、と縄の先を見上げ、ぎっちりと縛られたそこに嗚呼と納得した。それが初めての自殺だ。
否、こうして生きているわけだから自殺未遂なのだろうけれど。初めての失敗が己の命を絶つことだなんてなんとも言えない。
次は無難に何処かから飛び降りようと思った。高さがあればほぼ確実に成功する。だがそれも失敗に終わってしまった。
それが三度、四度と情けないことに失敗ばかり積み重ねてしまった。運が悪いのかなんなのか、寸前でいつも幼馴染がやってくるのだ。図ったようなタイミングで訪れ邪魔をする。
いや、本人からしたら邪魔というわけではないのかもしれない。彼はいつだって本気で泣きそうな顔をして僕を掴む。

「やめてくれ征十郎」

と悲痛な声を出す。
けれど悲しい哉、あんなに大切に想っていた幼馴染のその言葉にすら、いつの間にか何も感じなくなってしまっていた。
どうやら、身体よりも先に感情が息絶えてしまったようだ。

rewrite:2021.11.14