おわかれの日に朝日が差すこと
薫は物を捨てる。ふと思い立ったように大掃除を始めて、掃除を始めると色々な物を捨て始めるのだ。
それは着なくなった服だとか読まなくなった本だとか、そういう不要になったものだけじゃない。家具などの大きなもの以外、何もかも捨ててしまうのだ。気に入っていたDVDも、集めていた小物も、大事にしていたアクセサリーも、何もかも何一つ残さずゴミとして処分してしまう。
それはまるで過去を清算しているようだった。
今まで彼の部屋で生き、彼の部屋を彩っていた物たちが大きな袋の中で死んでいる。その死骸の山にどんどんと、あれも要らない、これも要らないと物を投げ込んでいく彼が恐ろしいものに思えた。
雑誌を纏めていた僕の手が止まっていることに気付いた彼が動きを止める。
「終わった?……なんだ、終わってないじゃん。どうかしたの?」
と首を傾げる薫はいつもと変わらない。大きな目を瞬かせて、じっと覗き込むように見つめてくるのも変わらない。
「いや、なんでもないよ。少し疲れただけ」
「んー、じゃあちょっと休憩しよっか。お茶淹れるね」
転々と転がるゴミ袋を避けていく。ゴミ袋から透けて見える兎の置物が恨めしそうに僕を見ている気がした。
「あとどれくらい?」
薫からカップを受け取り、置物から目を逸らす。
「どれくらいだろう。まあ分別するだけだからあと一時間もあれば終わるんじゃないかな」
「……全部捨てるのか?」
「そうだけど?」
どうしてそんなことを聞くのだ、と言いたげな目。
「どれも必要ないでしょ」
視線を僕の向こうにある死骸たちへ投げてから平坦な声で言う。
どれもこれも、必要ないのか。薫の手に包まれた彼のお気に入りカップを見た。これも捨てられてしまうのだろうか。
「そう」
いつか僕も、ああやって『必要ない』と捨てられてしまうのかも知れない。あの兎の置物やアクセサリーのように、投げ捨てられるのだ。
なんて恐ろしい人だろう。
「片付けが終わったら、買い物に行こう」
もしそうなったとしたら、僕は彼を恨むだろうか。恨むかも知れない。
rewrite:2021.11.14