歪に名前をつけて


※エナメルを塗った魂の比重パロ

急に何も食べられなくなってしまった。ついこの前までは普通に、なんてことなく食べられていたものが食べられなくなった。
いい匂いがするなあと思いながら食卓についても、並べられたものを見ると食欲が失せる。どうにも気持ち悪くなってしまうのだ、直前までは美味しそうと思っているのに。
飲料品や流動食はまだ大丈夫だけれど、固形物は全て駄目になってしまった。無理矢理口に含み飲み込んでも胃が拒絶して結局戻してしまう。最初こそ体調を崩しているだけかと栄養価の高いものを飲んだり流し込んだりしていたが、食事が取れないこと以外には何の異変もない。

「赤司さーん、赤司征十郎さーん」

病院独特の消毒液のような匂いに混じって、妙に腹の空く匂いがする。物を食べられなくなってから一向に消えることのない空腹感をじわじわと刺激する匂いを感じながら、呼ばれるままに診察室へと入った。

「こちらへどうぞ」

内科よりも小児科のほうが似合っていそうな、随分若く見える医者が僕を見て優しく笑む。問われるがままにここ数日のことを説明すると、目の前の医者、十江先生は困ったように眉を下げた。

「んー、その食べられなくなる前に何か兆候のようなものはあった?」
「いえ、何も。前日までは食事はとれていたので」
「うーん……」

原因はやはり分からないのだろうか。溜め息を飲み込んで先生を見ると、彼はふわりと笑った。

「赤司君、今何か食べたいものはある?」

何かを確信している顔で、先生は優しく笑んでいる。

「今……」

何が食べたいか?何だろう、想像するだけで気分が悪くなりそうで、あまり考えたくない。
けれど、敢えて言うとすれば、

「肉……?」
「何の肉だい?鶏?豚?」
「いえ、」
「じゃあ、何?」

何、なんだろう。ふと下げた視線の先にすらりと伸びた綺麗な指が映る。おかしなことにじわりと唾液が出てきて、胃が活動しようとしていた
。変だ、と思っているうちにすいっとその指が動く。

「いいよ、噛んでも」

口元へやって来たその白い指が美味しそうに見えて、ごくりと喉がなる。

「どうだい、気分は」

rewrite:2021.11.14