楽園の枯葉の下
しゃきん。彼の手の中で軽やかな音を立て、刃物が擦れ合う。しゃきん、しゃきん、と数度何かを確かめるようにすり合わせ、彼は小さく息を吐いた。
それから何の躊躇いもなく、じゃきん。間に物を挟んだが故の濁った音を立てながら裁ち切られる。無感情に何度も刃を鳴らして、幼稚な悪意の言葉を切り崩していく。
彼は無表情だった。燃ゆる炎の目は蒼褪め冷たい。
「誰だ」
人々に踏み躙られた花を拾いあげていた指先の優しさとは対照的に、彼女らを見つめるその目は恐ろしいほど鋭く荒々しい。
「水緒を閉じ込めたのは誰だ、誰が言い出して、誰が手伝った」
その威圧的する声に、哀れな少女たちの細い背は弱弱しく震える。その頼りないほど細い体内に、一体どれだけの悪意を詰め込んでいるのだろうか。どろどろに腐りきった幼い嫉妬は見境なく周囲を巻き込み、自らも燃やし尽くす。
今頃保健室で静かに眠っているであろう少年に刻まれた傷を思った。何度も何度も繰り返し裂かれ、抉られ、焼かれ、醜く爛れて血を流し続けているのであろう傷を思った。その傷口が放つ痛みを少しでも和らげ少しでも癒そうとしていた赤い指は、今別の誰かに同じだけの傷を残さんとしている。
止めなければならないのかも知れない。友人として、チームメイトとして、それはいけないことだと、それは違うのではないかとそう諭すべきなのかも知れない。
けれど僕にはあの怒りに燃える炎も、少女たちの齎す嫉妬の炎も消すことは出来やしないのだ。
じゃきん、とまた彼の手の中で音を立てる。それは鋭い槍となり少女らの喉元につきつけられた。沈黙は肯定なり、と。
その矛先で裂かれた場所から溢れるのは、きっとどす黒く悪臭を放つ悪意だ。裂け目から溢れるそれをに二度と火が付かぬよう、彼は徹底的に水を掛けていく。その凍るような冷たさは彼女たちを底へと突き落すのだろう。
「俺はお前達を許さない」
圧倒的な憎悪、侮蔑、殺意。
己が愛した人間の手に貫かれた少女は、一体何を思うのだろう。彼女らが散らした花が拾われることはない。
rewrite:2021.11.14