えいえんのための摩耗
蝉の鳴き声が聞こえる。
夕暮れ時の赤く染まった教室に誰かが立っていた。窓枠に手をつき外を眺めていたそいつが振り返る。逆光で顔はよく見えないけれど、それが誰かは知っていた。
そりゃあそうだ、ここにそいつを呼んだのは他でもない自分なのだから。
夕日の眩しさは目に染みる。窓に寄りかかったまま、それは口を開いた。声が教室に広がっていく。
「―――――」
ああ、蝉がうるさい。頭が割れそうだ―――。
これは単なる憶測でしかないけれど、僕の愛というものはきっと半分ぐらいしか大和に伝わっていないのではないだろうか。いや、半分も伝わってない可能性の方が高いかも知れない。
まあどんなに想ってたって、所詮僕と彼は他人で、彼は僕自身ではない。だから全てが伝わるだなんてことはあり得ないとわかっている。
けれどやはりどこかで、全て伝えたい、伝えられる、伝わっているはずだと思ってしまう。何故分からないんだろうと苛立ちさえ感じる時もあるくらいだ。言葉や行動で伝わる愛なんてたかが知れているのに。
というか、僕のこの感情を愛だなんていうたったの一言のみで表そうとしたのがそもそもの間違いなのかも知れない。いくら言葉があっても足りない、なんて言われるような類なのだ、この感情は。
僕でさえ計り知れず、日増しに大きくなっていくばかりなのだから。
「全く、厄介なものだよ」
足首に絡みつく黒い影を振り払って、残骸を踏みつけた。
蝉が鳴いている。
血のような夕日の赤が眩しくて目を閉じた。前に彼が僕の目の色と同じだと笑っていたことを思い出す。
あの日も今日みたいな目に痛い程に赤い夕日が浮かんでいた。こびりついたように張り付く蝉の鳴き声に頭を振る。追いかけるようにずっと鳴り響くそれにいい加減うんざりして、踏み砕くように一歩足を動かした。
ああ、と息が漏れる。湿ったような生臭くて生温い、気持ちの悪い風が頬を撫で蝉の声が増していく。
わんわんと脳を揺さぶるような大きさに、くらりと目眩がした。
rewrite:2021.11.14 | 蝉ネタと夕暮れ時ネタがすきなんだなあ