ひとりぼっちの告解室
彼にとっても俺にとっても、この世界はあまりにも生き難かった。
息をするのも一苦労で、気を抜けばすぐに呼吸を奪われる。居場所なんてない。あるとすれば、それは彼の隣だけだった。
彼がいれば俺は息が出来たのだ。彼も俺がいると息が出来るといってくれた。俺と彼は切っても切れない、太くて丈夫な糸で繋がれている、そう、思っていた。
「大和……?」
は、と真夜中に目が覚めて、彼のにおいがして名前を呼んだ。彼がいる気がした。すぐそこに、いつも俺に見せていた優しくて温かくて、悲しくなる笑顔を浮かべて立っているような。
「大和!」
ばさりと掛かっていた布団を跳ね除けて起き上がった。
しかしひたりと冷たい床に足を置いた途端、現実に引き戻される。
そうだ、居るわけがない。だって大和はもう俺のそばにはいないのだ。
あの日、もう生きていられないと泣きそうな顔をして俺の手をとった彼の手の温度がまだ手のひらに残っている。そして同時に、あの絶望的な程に冷たくなった手も。
どうして連れていってくれなかったんだと、今でも思うときがある。置いていくなんてひどい、俺は彼がいないと満足に息も出来ないのに、と。
でも違った。
彼がいなくなってもこうして平然と呼吸を繰り返し、日々を過ごしている。彼がいたあの時と変わらずに俺は生きていた。後を追えば良かった、すぐにでも追いかければ彼にまた出会えたかもしれなかったのに。
けれどあの時俺はすぐに彼を追うことは出来なかった。
そうして俺を見張る視線で出来た見えない縄が行動を制限して、呼吸すらまともに出来ない時があっても、それでも結局俺は生きていた。
機会はあった。でも、俺は彼の後を追えなかった。
今でも時折彼の声が聞こえる。どうして追いかけて来てくれないんだ、と俺を責め立てる彼はそれでも悲しいほど美しい笑みを浮かべているのだ。
君がいない世界で生きるのはとても難しい。死んでしまいそうなくらいに。
でも、それでも彼を探しにいけないのは、ただ俺が弱いからというだけの話だった。
rewrite:2021.11.11