黙して夢を見る


母さんが連れてきたのは真っ赤なひとだった。燃える瞳は宝石のように煌めいていて、とても綺麗だと思ったのをよく覚えている。
そのひとのことを母さんは人形だと言っていた。僕にはひとのように見えていたからその違いが少し不思議で、でもその不思議を聞いて怒鳴られたりしてしまうのが嫌だったから口を閉ざす。その人形は征十郎というのだそうだ。

「征くん」

征十郎が長くて言い辛そうにしていた僕を見かねてか、彼はすきに呼んでいいと笑ってくれた。「なんだい」征くんは、僕にとてもやさしくしてくれる。彼の周りの空気はあたたかくて息がしやすい。ここの空気はひどく冷たいのだ、僕に息をさせまいと必死に拒む。
僕はみんなに嫌われていた。今だって、ぎいぎいと固い椅子が文句を言っている。ひんやりとした指先が髪を撫でていくのに目を伏せながら、もう一度彼を呼んだ。

「どうしてみんな帰ってこないの?」

いつからか、何の物音もしなくなったこの家はやけに広い。冷たい空気を吸いほわりと吐き出した彼が薄く笑いながら「水緒は知らなくていいことだよ」と言う。
彼がそう言うならそうなのだろう。彼の言うことはいつだって正しいのだ。
ひとは間違うものだと聞いたことがあるけれど、彼が間違えたことは一度もないから本当に人形なのかもしれないなあ、とあたたかい彼の体に寄りかかり目を閉じた。母さんも父さんもいないこの家はとても静かで、なんだか別の世界にいるみたいだ。
けれど彼らの大きな声はまだ消えず、ふとした時に落ちて響く。それが僕には怖くて仕方がなかった。

水緒

もう夕飯にしようと僕の手を引き彼は立ち上がった。
そのまま僕をテーブルにつかせ、いそいそと準備を始める。また今日もお肉だ。最近お肉ばかり食べている気がする。
少しだけ固くて、懐かしいような怖いようなにおいがするその肉は、あまり好きではなかった。美味しいのだけれど、食べている内に不思議と彼らを思い出してしまう。

「いただきます」

それでも彼が作ってくれたものは食べなければならない気がした。

「どうぞ召し上がれ」

ああ、これ、母さんのにおいがする気がする。

rewrite:2021.11.11 | BGM:ツギハギ惨毒 / マチゲリータP