染めたての微睡


教室の騒がしさに疲れてしまって、静かな場所を求めやってきた図書室は思っていたよりもずっと居心地の良い場所だった。薄いカーテンで柔らかくなった日差しがほんのりと室内を暖めていて、眠気を誘う。
読みかけていた本を閉じ、開けられた窓から時折入る風にひらひら揺れるカーテンの裾をぼんやりと眺める。なんだか知らないところにいるようだ。喧騒とは無縁なここは淡い色ばかりが散っていて、ふわふわと足元が安定せず意識も舞ってしまいそうになる。
眠たい。
ぼうっとしている内にだんだんと瞼が重たくなってきて、夢と現実の境目が曖昧になっていく。まだ休み時間は残っているし少しだけ眠ろうと欠伸をひとつ、ひんやりと気持ちのいい机に頬を寄せた。
目を閉じてしまえば、あとはもうゆっくりと意識がとけて沈んでいった。

「こんなところで寝てたら風邪引くよ」

仄かに甘いにおいがする。女子にしては少し低い優しげな声がして、ふわりと何かを掛けられた。
誰だろうと思って目を開けようとしても、くっついてしまった瞼はそう簡単に持ち上がらない。吐息がこぼれるような小さな笑い声がして後、優しく丁寧な手付きで頭を撫でられた。
あたたかいその温度が気持ちよくて、また意識が沈んでいく。

「赤司君」

肩を叩かれる感触と潜められた声にハッと瞼を開けた。どれぐらい眠っていたのだろう。途中夢を見た気がする。

「黒子……」

見知った水色の髪に体を起こすと、ぱさりと肩から何かが滑り落ちた。
淡い色のブランケット。あれは夢じゃなかったのだろうか。このブランケットは、あのときの誰かが掛けてくれた物なのだろうか。

「ここに来たとき誰かいたか?」

あのあたたかい手は一体誰だったのだろう。

「いいえ、赤司君しかいませんでしたよ」
「そうか」

記憶に残ったあの柔らかな香りと淡い声がくるりと回る。

「心当たりはないんですか?」
「ああ、困ったことに」

そう言うわりには楽しそうですね、と言う黒子に笑いながら、仄かに甘く香るブランケットに触れた。

rewrite:2021.10.18