飼い慣らした手のひら


またあいつが女を泣かせてた、今日ので何人目だ、そういやこの前は男だった。
ひそひそ愉しげに囁かれる話の中心人物はいつも同じで、結末も同じ、何もかも捨ててまでもその男を愛し、尽くしていた人間を男はゴミでも捨てるかのようにカンタンに切り捨てた、なんてものだ。

「それで、今度は何て言って泣かしてきたんだい?大和

噂の中心人物は室内に入って来るや否や「お前までそんなこと聞くわけ?」と顔を顰めソファに身を沈めた。
その長い足を組み海色の瞳でじっとりと僕を見やる。

「あっちが全部勝手にやってきてたの、お前も知ってんでしょ」

お前も煽ってたくせに、なんて少しうんざりとした様子を見せる。

「征十郎、こっち」

ぽんぽんと自分の横を叩いてちらりと視線をよこす。
軽いため息を吐きながら読みかけの本を置き、彼の座るソファへ腰掛ければ彼が凭れかかってきた。その重みとあたたかさを感じられるのは僕の特権だ。
そんなことを考えながら彼の手に触れればごく慣れた手付きで指を絡められ、甘えるような唸り声と共に肩口に彼の額が擦り付けられる。

「疲れた」
「止めればいいじゃないか」
「ん~、やだ」

全く、彼のこの悪癖はどうにもならない。

「毎日誰かに別れてくれと言われる僕の身にもなってみろ」
「んなこと言ってお前も楽しんでんじゃん」
「流石に泣き叫ばれるとうんざりする」

きゃらきゃら無邪気に笑う彼に、一体どれだけの人が弄ばれたのだろう。思わせぶりな視線と笑みで男も女も関係なく虜にして、けれど決して自分には触れさせず決定的な言葉も絶対に与えない。
焦れた相手がどう動くのか、彼と別れてくれと言われた僕がどう返答するのか、そうして相手が自分にどう出るのか、ただ愉快そうに眺めている。
彼なりに言えば所謂“知的好奇心”を満たすためらしいこれにあと一体何人が巻き込まれるのか。

大和、“遊び”もほどほどにね」

まあ、あと何人巻き込まれようがどうなろうが、結局彼が一番求めるものが僕であるうちは僕も彼の“お遊び”に付き合おう。

rewrite:2021.10.17