あたらしい日々のような終わり
征十郎くんは僕が勝手なことをすると怒ります。
僕がお料理を失敗しても、お掃除でドジを踏んでも笑って優しく頭を撫でてくれるのに、僕が勝手に行動するととても怖い顔するのです。
それが僕は怖くていつも泣いてしまいそうになります。そうすると征十郎くんはいつも、お前は僕の言うとおりにしてればいいんだよと優しい声で言って抱き締めてくれます。あやすように髪を撫でながら、僕が安心して、ゆっくりと息を吸うことが出来るまでずっと抱き締めていてくれるのです。
征十郎くんは、僕と違って何でも自分で出来てしまう人でした。頭も良くて、言うことは全て正しいのです。だから彼は僕が間違ったことをしないように、といつも色々なことを言ってくれます。
だというのに僕は時々、勝手なことをしてしまうのです。それに対して彼が怒るのは多分、それが間違っていることだからなのでしょう。
いまいちどこをどう間違えているのか分からないけれど、征十郎くんが怒るということはそういうことなんだろうと思います。彼の言葉に反しているから、きっと間違っているんです。
「水緒」
征十郎くんは僕の名前を呼ぶとき、とても優しい顔をします。それがなんだかくすぐったくて、いつも僕は嬉しいような恥ずかしいような、けれどひやりとするような少しだけ居心地の悪いものを感じます。
「なあに?」
「今から仕事が入ったから僕はいなくなるけど、ちゃんと家にいるんだよ」
言い付けは守るように、とまるで小さい子に言い聞かせるような声で彼は言います。それに頷くと、いい子だと言って頭を撫でてくれました。
征十郎くんの優しい手は、僕をいつも幸せな気分にさせてくれるのです。
「お前は僕の言うとおりにしてれば、それでいいんだ」
彼はよくこの言葉を僕へ投げかけます。言い聞かせるように、刷り込むように。
けれど本当は僕は知っているのです。僕は馬鹿ですが、知っていたのです。それが間違っているということも、彼の目が汚く澱んでいることも。
何も間違えない彼の、唯一の間違いです。
rewrite:2021.10.17