まだ温い半貴石
▼ ジェイド・リーチ
黒い服を纏った新入生が犇めく鏡の間に、突然現れた魔力を持たない、この世のどこにも居場所のない人間。
黒々と、深い緑に輝いてみえそうな程艶やかな髪を揺らし、困惑に眉を下げたその顔はこの世のものとは思えないほどの美しさをもっていた。艶やかに濡れ光る黒い髪に、オブシディアンに似た瞳、薄暗いこの場でも仄かに光って見えるほど白い素肌と血のように赤い唇。
グレートセブンに名を連ねる美しき女王すら嫉妬するほどの美貌を誇ったと言われる姫君と同じ色彩を持ったその少年。鏡の放った「この者のあるべき場所はこの世界のどこにも無い」、その言葉に意味が、この世の存在ではない人ならざるものと言っているのかと思わせるほど美しく精巧な、ビスクドールの顔。
天使か、それとも妖精か、はたまた。とざわめく新入生の声を聞きながら、ジェイド・リーチもまた、鏡の前に立つその存在が自分と同じ“生きているもの”であるのか疑問に感じていた。
先ほど見たエペルと名乗った少年も少女に見紛うほど愛らしく整った顔立ちをしていたし、一つ上の学年に在籍するヴィル・シェーンハイトもまた凄絶な美を誇っている。海の世界にも見惚れるほど美しい人魚はいたし、自身の幼馴染であるアズール・アーシェングロットもまた美しい顔立ちをしていた。
皆一様にハッとする美しさ、可憐さを持ち、それは生命のエネルギーに満ちている。
けれど彼は違った。
どこか寒々しく、夜の海を思わせる静謐さと不穏に満ちている。人の心を揺さぶり引き摺り込む、“死”の気配を薄く漂わせていたのだ。
不安の浮く瞳を伏せ、式典服の裾を握りしめ所在無さげに立つ姿に胸がざわつく。袖から覗く小さく柔らかそうな手。きっと海の中の厳しい生存競争では生き残ることはできないだろう、細く力のなさそうな体。
けれどどうしてか、そこに毒々しいものを感じるのだ。カツオノエボシやハナミノカサゴのように猛毒を持ち油断し近付いたものを仕留める、ただ美しいだけの弱い存在ではない。
そう思わせる何かを、ジェイドは彼に感じたのだ。
2025.06.01 | つづきます