おなじ音を持つ異形


▼ 宮田司郎

誰かがぼんやりと眞魚川を見下ろしている。黄色みの無い肌が日光を受け淡く光って見えた。手足も日本人離れした長さを誇っているし、おそらく外国人観光客だろう。
こんな何も無いところでも、ほんの時折酔狂な人間が観光をしにやって来るのだ。目の前の男もその類なのだろうと漠然と思いながら通り過ぎようと足を動かしたと同時に、男が振り向いた。
矢を思わせる鋭く真っ直ぐな視線に一瞬息が詰まる。

「なあ、ここは羽生蛇村か」

随分と流暢に日本語を話した男は人差し指で足元を指す。

「……ええ、そうですが」

男は驚いたとばかりに眉を上げオーマイガーと呟いた。

「おいおいマジかよ。今って二〇〇三年?」
「ええ」
「ワーオ!すっげえ!」

一体何なんだこの男は?妙な人間に絡まれてしまったかもしれない。
早く病院に戻りたいのだが男はまだ何か聞きたそうに目を輝かせている。

「まだ何か」
「あー、ドクター?この村でイッチバン偉い人のところに案内してくれない?」

にっこりと笑ったその目は有無を言わせない強さがあり、つい先ほど顔を合わせた神代家当主を思い出させる。
何でもかんでも自分の思い通りに事を運び、その為には手段を選ばない人間の目だ。断ったところで無理矢理案内させられるだけだろう。

「来い」

またあの家に行くのかと思うとそれだけでうんざりしてしまう。礼を言いながらついて来た男は上機嫌に辺りを見回していた。

「パッと見は普通の村だな……でもイヤな臭いがプンプンする」

笑いを含んだ声はゾッとする冷ややかさを持っている。男を見れば、彼も俺を見ていた。

「アンタからは血の臭いがするな?」

緩やかな弧を描いた瞳は獲物を見つけた猛獣じみた輝きを放っていた。この男は一体何を知っているのだ。

「思ってたのと全然違うな、ただ人魚姫がいるだけかと思ったら随分と生臭い」
「……何をしにきた」

男はより一層笑みを深めた。

「この村を終わらせにきたんだよ、わざわざ未来からな!」

そして朗々と男が語ったことはあまりにも荒唐無稽でトンデモナイ嘘八百をずらずら並べられているようだった。狼少年だってまだマシな嘘を吐くだろうに。
だが男は俺の疑惑の目にただ声高に笑うだけだった。

rewrite:2022.03.14 | 文字書きの為の言葉パレット(@x_ioroi)「酔狂・嘘八百・狼少年」(Jesus!IF:もし牧野ではなく宮田と先に出会っていたら)