一等席の悪夢


▼ 宮田司郎

「貴方は、俺が貴方のことを心からしていたということを知っていますか」

大和さんはきょとんと目を丸めた。
その無防備な顔に今までどれだけ苦しめられたのだろうかと思うと、愛しいと思うと同時にどうしようもない苛立ちが湧いてくる。大和さんは困惑を滲ませながらも何かを拒絶するように目を伏せ、それから少しだけ首を傾けて俺を見た。
彼のこの仕草は防御の姿勢だ。厚い壁を作るときの前触れで、こういう時は絶対に線を越えさせない。近付けさせず、心に触れさせないのだ。

「知っていたでしょうね、貴方は聡い人ですから」

そしてとても鋭い人だ。俺のを突き破って本当を見つけてしまうくらい。
大和さんは黙って俺を見ている。一瞬痛そうに眉が寄ったのが分かった。それは微々たるもので、彼をいつも見ていた俺だから分かるものなのだ。
そう思うと少しだけ嬉しくなって笑みが浮かぶ。
今、彼の心をほんの少しでも苦しめているのはこの俺なのだ。

「貴方は酷い人だ。俺がこんなにも、貴方の為ならば何だって出来るくらい貴方を愛していると知っているくせに、何にも知らないふりをして平気で近付いてくる」

それがどれだけ苦しいものなのか考えたこともないのだろう、きっと興味もない。この人の興味が俺に向くことはないのだ。
しかし大和さんは友人として俺を愛してくれてはいる。それを分かってしまっているから、余計に痛くて堪らない。
本当に、今すぐめちゃくちゃにしてやろうかと何度思っただろう。

「俺がいつも何を考えているか、少しは考えたことがありますか?無いでしょうね、貴方は誰のことも知ろうとしない」

もし彼が俺のことを少しでも知ろうとしていたら、きっと今こうして向かい合うこともないのだろう。
指先が金属に触れる。もうお開きだ。

「俺は貴方を、心底愛していましたよ」

ああさらば愛しい人よ、どうか最期まで見届けてほしい。
その美しい瞳に全てを焼き付けて、死ぬまで忘れないでいてくれたらどれだけ嬉しいことだろう!

「だから絶対に、俺のことは覚えていてくださいね」

そうしてどうか、毎晩俺の夢に魘されますように。

rewrite:2022.03.11 | 文字書きの為の言葉パレット(@x_ioroi)「愛・嘘・指先」