横顔のくらがりの月
▼ 宮田司郎
彼が真夜中に目を覚ますようになったのはいつからなのだろう。
ふと隣に温度を感じず目が覚めて、見ればその姿はどこにも無い。そうして探せば彼は決まって居間のソファで薄闇に沈みながら、少しだけ開けられたカーテンの隙間から外を眺めている。
どうしたのか尋ねればその返答はいつも同じ、「夢を見た」だ。
そしてその後に、夢を見ていたことは覚えているけれどどんな夢だったのかは覚えていない、そう続く。けれど決して良い夢ではないのだと彼は言う。体の隅々に残る気持ちの悪い重さで分かるのだと。
「また夢を見たんですか」
深夜三時、探した温度がいつまでたっても指に触れず目が覚めた。少しだけ眠気の残る体を起こして居間へ向かえば、案の定彼はソファに身を預けぼんやりと外を眺めている。
「ええ、また見ました」
窓の外から視線を外さず彼は頷いた。
暗い室内に射す月明かりが彼の白い肌を淡く照らし、ひどく遠い人に思わせる。
「起こしてごめんなさい」
そう思うのなら少しでもこちらを見ればいいのに、彼の視線は変わらず外を向いている。何を見ているのだろう、一体そこから何が見える。
一度、昼間に彼がいつも座るそこに腰掛け彼がいつも見ている景色を見たことがあった。そこにはただ砂利と緑と空が広がるだけで、他には何もない。
彼は何を、いつもいつも、
「何を見ているんですか」
ふっと小さく、そっと息を吐くように彼が笑った。そして隣へ座れというように手を動かす。誘われるがままに腰を下ろせば朝焼けのような彼の瞳が柔らかな孤を描いた。
「司郎さんは、ここから何が見えますか」
そっと寄り掛かる温かい重さを感じながら窓の外へ目を向けるが、月の心許無い光しか存在しないそこはただ薄闇が広がるだけで何も見えない。
「俺にはいつも、あの暗い墓穴が見える。貴方がつくる、墓穴が」
不意に吐き気がこみ上げて目を閉じた。そうしてまた開いた時には彼の姿は何処にも見当たらず、名前を呼ぼうと息を吸ったところではたと気付いた。
俺は、あの人の名前すら知らない。
rewrite:2022.03.11 | 文字書きの為の言葉パレット(@x_ioroi)「朝焼け・白・薄闇」