雲間にて刺す
▼ 宮田司郎
目が合ってしまった。洞穴のように真っ暗で何も映していない虚ろな目がじいっとこちらを見ている。
逃げようにも足は動かず、目を逸らしたくても逸らすことが出来ない。声を出そうと口を開いても出てくるのは引き攣れたような息だけで、瞬きも出来ず乾き始めた眼球がひりひりとした痛みを発している。
ふと何か冷たいものが足に触れた。ぞわりと背筋が凍りつくような冷たさに恐怖心がどんどん広がり、大和、とここにはいない、いるはずのない彼の名前を音もなく呼んでしまう。
その時、
「見るな」
突然視界を何かが遮った。あたたかい手と覚えのあるにおい。
「大丈夫、ゆっくり息吸って……吐いて」
優しい声にゆっくりと力が抜けていった。
「そう、いい子だ」
体が軽くなったと思った途端、またあの張り付くような寒気を感じ目元を覆う彼の手に自分の手を重ねた。
「目、そのまま閉じてろよ」
緊張感を纏った声に頷くと守るように覆っていた手が離れていき、肩を掴まれぐるりと体の向きを変えられそのまま手を引いてどこかへ向かっていく。背にちりちりと焼けるような視線を感じる。
きっとあの目が自分をじっと見ているのだ。けれどそれ自体が追ってくることはなく、纏わりつくような寒気も徐々に薄れていった。
ふ、と何か生温いものが顔を撫でたと感じた時、急に歩みが止まる。
「目開けていいぞ」
ちらりと振り返って見たが、もうアレはどこにも見えない。それに安堵すると同時に沸いた疑問に口を開いた。
「どうしてあそこにいたんですか」
しかもあのタイミングで。
「どうしてってお前が呼んだからだろ。約束したの覚えてねーのか?お前が呼んだらすぐに行くってやつ。すぐ来ただろ?」
その約束は覚えている。けれどあれが聞こえて、更にはあんなに早く現れることが出来るだろうか。
……いや、考えるだけ無駄だ、彼にこの世の常識なんてものが通じないことは嫌と言う程知っている。
「そうですね」
彼が出来るといえば出来るし、聞こえるといえば聞こえる。そういう風になってしまうのだ。
彼が神なんてものを自称するかぎり。
rewrite:2022.03.11