藍に温くとける
▼ 松野カラ松
全身に薄い青を纏い輝く瞳で硝子越しに水中を見上げるその姿の美しさは、この世のものとは思えないほどである。
カラ松は水槽を眺める大和の横顔をぼうっと見つめながら、この人はやはり人間なんてものではないのだろうと本気で思っていた。
毎日毎日とびきり美しい瞬間を見つけてはそんなことを考えてしまう。前に宇宙のようだと誰かに言った瞳の中を泳ぐ魚の影をそうっと覗き、きっとその海は心地良いだろうとカラ松は目を細めた。
カラ松はその海があたたかく、愛に満ちていることをよく知っている。その海に触れられるのがカラ松ただ一人だけだということもまた、彼はよく知っていた。
「……綺麗」
硝子にそっと触れる指先に水の細かな輝きが移り、浮かび上がるように光った。子供のように無邪気なその声と表情は彼の持つ大人びた容姿と相俟りどこか危うげな色を作りあげていて、知らず喉が鳴る。
と、次のコーナーへ足を動かしていた大和が、水族館に入ってからめっきり口を開かなくなったカラ松へ少しだけ不安げな瞳を向けた。ここに連れてきてくれたのはカラ松だけれど、もともと行きたいと言っていたのは大和自身だ。
楽しくはなかっただろうか、と少しだけ寂しくなりぼうっと黙って自分を見つめてくるカラ松に大和はそっと声をかけた。
「カラ松、楽しくない?」
「えっ、あっ違うんだ、その……大和が綺麗で……」
「あ、あー……そう」
真っ赤な顔のカラ松につられるようにじわりと頬を赤くしながら、大和はカラ松があり得ない程自分を好いていたことを思い出した。大和と共に居られる場所は全て楽園であるという顔をする男だったのをすっかり忘れていたのだ。
大和は熱を吐き出すように息をついて、それから手を差し伸べた。
「手、繋ごうカラ松」
「え!?いや、う、嬉しいが……でも……」
「誰も見てないよ。な、ダメ?」
「ダメ、じゃない」
大和は重ねられたカラ松の熱くしっとりとしたその手ににっこり笑った。ふんふんと小さな鼻歌が聞こえてきそうなご機嫌な様子に、胸を高鳴らせながらカラ松もつられてまた至極幸せそうに笑う。
ああ、今日も彼のいる世界はこんなにも素晴らしい、と。
rewrite:2022.03.22 | 短編「致死の瞳」の続編