羽根の躾け糸
▼ 松野一松
「一松」
圧し掛かってきた大和の体温の高さにぐらりと理性が揺らいだ。緩く細められた瞳に籠る甘ったるい熱がじりじりと脳を焼いていく。
「ねえ、ちょっと、」
肩を押しながらどいてと言おうとした矢先、
「名前呼んで」
恍惚さえ窺わせる声でそう言いうっとりと笑み肩を押す俺の手を捉える。そうしてその長い指を絡ませ握り締めると、俺の手の平にそうっと唇を寄せ柔らかなキスをのせるのだ。
「一松、俺のこと愛してるって言って」
囁き俺の胸に手を置いて身を乗り出し、何度も唇に吸い付いてくる。やわやわと食まれ、薄い皮の上をねっとりと舌が這っていった。
「言って、なあ、早く」
いつの間にか彼の腕は俺の首に回され逃げ場はなくなっていた。目を合わせようとしない俺に焦れたのか、吐息がかかる程の距離で「愛してるって、俺しかいらないって言って」と切なげに掠れた声で言う。
それでも俺が何も言わないままでいると次第にその瞳の水気が増していった。回されていた腕が再び俺の肩の上へと戻される。
「一松、お願い、」
小さな子供のように何度もお願いと繰り返す彼の目からとうとう涙が零れ落ちた。渦巻いていた甘い熱がどんどん流され、代わりに冷たく暗い悲しみに塗り替えられ苦しげに歪んでいく。
震えた小さな声で、それでも繰り返される“お願い”にようやく、ゆっくりと息を吐いた。
だらりと投げ出していた腕を震える背に回しぼろぼろと涙を落とす彼の頭を肩に押し付ける。落ち着かせるようにゆっくりとした速度で背中を撫で下ろし、その手が縋るように俺の胸元を握り締めたのを感じたら、
「愛してる、大和。お前だけしかいらないから」
とびっきり、これ以上ないってくらい優しく言うのだ。
隙間を無くすようにきつく抱き締めて大和の望む言葉をその耳へと流し込んでいく。
「……一松」
嗚咽が治まりだしたら涙に濡れた頬を拭って、そして彼の望む通りキスをすればあとはもう、全て俺の思うままになる。
可愛い可愛い俺だけの人形の出来上がりだ。
rewrite:2022.02.28 | これはイケメンに捏造したタイプの一松さん。