不定の春をいくつも並べて


▼ 松野カラ松

時々、大和のことがたまらなく美味しそうに見えることがある。彼はいつだって良い匂いがする(柔軟剤の匂いだとか、時にはお菓子のような甘い匂いだとか)し、薔薇色の柔らかそうな頬や唇だったり、綺麗な形の桜色の爪だったり、どこか淡くてふわふわとしたものがあるのだ。
それを目にする度、なんだか美味しそうに思えて、ぱくりといってしまいたくなる。実際口に入れてみても甘い味がすることはないのだが、なんとなく美味しいような気がして、なんとなく安心するのだ。
大和も怒らないものだからつい、ついつい口に含んでしまう。

「ン~、完璧だぜ……」

大和の伸びてきていた爪を切ってやすりを掛け、滑らかになったそこを眺めているとじわっとまた衝動が沸き上がって、ついついぱくりと口にしてしまう。根元まで含みもぐもぐと奥歯で甘噛みすると、大和はくふくふ笑いだした。
まるで可愛くて堪らないというようなその眼差しは、少し恥ずかしいけれどとても嬉しい。愛されているとよく分かるから。
溢れだした唾液を嚥下するついでにじゅうっと吸い付くと、ひくりと彼の肩が震えじわりと頬に朱がまじり始めた。愛でるようだった眼差しが揺れる。
固い関節を犬歯で突きながら長い指に舌を巻き付ければ、こちらを見つめていた瞳が水気を帯び始めた。じゅるじゅると血でも吸い出すように圧をかけ、爪と肉の間を舌でなぞりながら再度彼を窺うと目尻を赤く染め潤んだ目でこちらを見つめていた。
薄く開かれた唇から、ふるふると細かく震え熱を孕んだ吐息が聞こえてくる。
口角があがるのを止められない。そのまま口を開き、見せつけるようにべろりと指を舐めあげてみせればこくりと白い喉が震えた。下がった眉と熱を帯びた眼差しにぞくぞくしてしまう。
いつだって完璧で素晴らしい彼が俺によって翻弄されているのだ、興奮しない方がどうかしている。
さて、そろそろ俺も我慢が出来ないし大和ももうとっくに食べ頃だ。据え膳食わぬは男の恥ともいうし、ここは遠慮なくいただこうじゃあないか。

rewrite:2022.02.24 | もぐもぐ唐松くん