アップライト・サーカス


▼ 松野おそ松

時々、何もかもが面倒になって、ごちゃごちゃ喚いて騒いでみたりへらへら馬鹿みたいに笑ってんのもヤになってしまう時がある。身体が重たくて何一つ自由に動かせず、ただ部屋の真ん中でごろりと寝転がって目を閉じた。
何一つ儘ならない。
段々、吸って吐いてと繰り返す呼吸すら面倒になってきて止めてみても、結局苦しくなって息を吸う。けれどそれすら上手にできなくて、厭な苛立ちと怠さがどろどろと周囲を包み込んでいくのだ。
こういう時は、俺の傍には誰一人近寄っては来ない。空気を読まず絡んではいつの間にか俺を引き上げてくれるカラ松すら、一切合切見ないふりとでもばかりに無視をきめこむのだ。
嫌になる。もう何が嫌なんだか分かんないけど、何もかもが嫌。
きっとこのままずぶずぶと沼の底に沈んでいって、死んでしまうんだ。きっとそう、誰も俺のことなんて引っ張ってくれやしないから、このまま、ずぶずぶずぶずぶ。

「おそ、寝てんの?」

いや、いた。一人だけ、カラ松なんかよりももっとずっと空気を読まない野郎。こっちの気なんかお構いなしで引きずり込んで引っ掻き回して、ぶんぶん振り回したと思ったらあっさり手を離すようなそういう奴。
隣の事務所からウチの屋根に飛び乗ってやってきたヤローはまた土足のまま窓から部屋に上がり込んできた。掃除するのは誰だと思ってんだ、毎回毎回こいつは!

「あら~?おそくん今日はゴキゲンななめなの?」

ごっつい靴が顔の真横にどん、と降って来てギョッと目を見開けば仁王立ちで俺を見下ろす悪魔の顔がある。
にやにや笑って、

「Good morning, Darling!」

なんてうんざりするような甘ったるい声で言うのだ。

「お仕事手伝えよ、おそ。暇だろ」
「ヤだ!絶対ヤだぁ~!」
「またちゃんと出来たらご褒美やるぞ」
「ごほうび……」
「前と同じやつだし、簡単だろ」
「ま、前とおんなじ!?絶対無理!死んじゃう!」

ああ、ああ、クソみたいに可愛くなくて可愛い弟たちよ!今すぐ帰ってきて俺のことをどっかに連れてって!じゃないとまたこの俺様何様大和様にめちゃめちゃにされて死んじゃうよ~!

rewrite:2022.02.24