遠ざかる夜の遊園地


▼ 松野一松

この世には出会ってはいけない人間同士というものが存在するのだとその日僕は知った。僕の五人いる兄の一人である松野一松とあの男は、きっと出会ってはいけなかったのだ。
赤く身を染めた兄はひどく幸せそうで、そんな顔はもしかすると初めて見たんじゃないかと思ってしまうほど満ち足りていて、ぞっとする。兄に寄り添う男もただ眠っているだけなのではと思うくらい穏やかな顔をしていて、自分の中で何かが暴れてしまいそうで見ていられなかった。
どうしてこうなったのだろう。
一昨日の夜、いつにも増してご機嫌な様子の一松兄さんは、

「明日大和と出掛けてくる、多分帰らない」

と母さんに言っていた。
大和と一松兄さんは高校で出会って以来ずっと仲良くしていて、彼は一松兄さんの唯一といっていい人間の友達だ。
僕も何度か遊んだことがある。一緒にいて楽しいし面白い人だけど、僕はなんとなく大和が苦手だった。
あの瞳が僕には妙に恐ろしかったのだ。自信に満ちた力強い真っ直ぐな眼差しは、じっと見ているとだんだん底知れぬ沼に引き摺り込まれていくような感覚を抱かせてくる。全然そんな感じは無いのに、頭がおかしくなりそうな、泣いて喚いて許しを請いたくなる、そんな気が何故だかしてくるようで僕は苦手だった。
一松兄さんと大和は度々泊りがけで何処かに遊びに行くことがあって、昨日もそうだった。
昨日の朝、朝御飯も程ほどに「いってきます」と珍しくちょっと笑って僕たちに言った一松兄さんを、僕たちは朝御飯を必死に奪い合いながら見送って、それが最期だった。
帰らないってそういうことだったの、いってきますってどういう気持ちで言ったの。聞きたいことは沢山あるのに答えてくれる人間はもういないのだ。
しっかりと繋がれた二人の手と『来世で幸せになります』という紙切れの意味も理解できないし、わざわざ時間指定までして僕たちをここに呼び出した意味も分からない。理解したくない。
がたがた壊れたように震える僕の後ろで、兄さんたちの叫び声と泣き声が聞こえる。
皆が泣いてる中で、一松兄さんと男だけが静かに微笑んでいた。

rewrite:2022.02.24