すべて運命のせいにして


▼ 松野おそ松
※全然活かせてないマフィア松


野生動物のようにしなやかで鮮やかなその身のこなしは敵ながら天晴れで、思わず見惚れてしまうほどであった。目の前で部下共がどんどんただの挽肉と変わっていくというのに、俺は目の前で踊り笑う男から目を逸らせず何も出来ない。
熱を帯びギラリと光る青緑の瞳は愉悦で歪んでいるのに、どこか夢みる少女めいている。矛盾を多く抱えた男だ、それがまた途方もなく暴力的なまでに魅惑的で、ごくりと喉が鳴った。
あの男がほしい。何を差し出してもいいから、あの男が欲しい。
最後の肉からゆらりと離れ返り血塗れの顔を乱雑に服の袖で拭った男はまた笑った。幼子のように無邪気で、聖母のように慈しみに溢れ、悪魔のようにいやらしい、ゾッとするほど鮮烈な笑みが俺を捕らえる。
握り締めたままの銃を構えるには体が重くていうことをきかない。

「ああ、やっぱりいいなぁお前」

どろりとした低い声がずるりと這入り込む。
目の前まで来た男が両手の武器を投げ捨て、勢いよく腕を伸ばしてくる。あ、と思う間に俺は男の腕の中に抱きこまれていた。

「全部捨てて俺のとこに来いよ」

耳元で吹き込むように囁かれ、

「なあ、おそ松」

ぞくりと頭の天辺から爪先まで甘い痺れが駆け抜けた。
ただ名前を呼ばれただけ、それだけだ。それだけなのに体に力が入らない。震えた息を吐くことしか出来ない俺に男はくつくつと喉で笑って、そうっと少しだけ体を離した。
きっと俺は惚けたような酷い顔をしているだろうに男の目はまるで宝石か何かでも見るようだ。

「ね、もし一緒に来てくれるなら、俺の名前、呼んで」

背に回されていた手の片方が、するすると腰から胸へと移動し、頬に当てられた。何かを擦り込むように親指が何度も唇をなぞる。

「呼んで、大和、て」

甘く掠れた声がじくじくとした快楽に似た痺れを与えてくるもんだから、たまらない。
ああ、もう、いいんじゃないの?だって、俺だってこの男が欲しいのだ。こんなもの全て捨てちまっても、全然構いやしないんじゃないの?

「……大和、お前を俺に頂戴」

がしゃんと俺の手から滑り落ちた銃の音が合図だった。

rewrite:2022.02.23 | 他兄弟もきっと陥落していく。昔みた夢を元に。