あなたのうたひびくところ


▼ 松野カラ松

上から降り注ぐ鈍器に目が覚めてしまった。
乱れた息を整え寝返りを打てば、隣で眠る大和が見える。カーテンのわずかな隙間から入る月明りでほんのりと白く浮かぶその顔は、何かいい夢でもみているのか少しばかり綻んでいた。
緩やかにカーブを描く眉と、ちょっとだけあがった口角の無防備さに胸がきゅっと苦しくなる。この人のこんな姿を知っているのは、きっとこの世で俺だけだ。誰の前でも隙をみせないその心をふんわりと柔くして差し出してくれる大和がたまらなく愛おしくなって、そのまろやかな頬をそっと撫ぜた。
その感触に夢から引き揚げられたのか、一瞬眉間に皺が寄り、ふるりと濃ゆい睫毛が震える。
それからゆったりと重そうな瞼が持ち上がり、鮮やかで眩い宝石が姿を現すのだ。

「ん~……?なあに、どしたのカラ松……」

俺にだけ向けられるとびっきり甘くて優しい声は少し掠れ滲んでいる。半分ほどしか姿の見えない瞳もうるうると煌めき揺らめいていた。

「こわい夢でもみたか?」
「……うん」
「ん……ほら、こっちおいで」

俺を迎え入れるように腕は布団を持ち上げ、広げられる。
いそいそとその隙間に体をねじ込み、温かい彼の体に腕を回してぎゅうっと抱きついた。くすくすと小さな笑い声が耳元で聞こえ、それからすぐに抱き締め返される。
薄いTシャツ越しの体温と心音が心地よく、そこでようやく俺は再びゆっくりと眠りへの階段を下りてゆける。とろとろと微睡んでいく俺の頭を撫でた彼の微かに笑った吐息が額に触れ、そのすぐあと、柔らかなものが押し付けられた。
きっとあのおまじないだ。
大和は俺が嫌な夢をみたり、嫌なことがあって落ち込んでいたり、悲しいことがあって泣いていると、額にそっとキスをしてくれる。
それは俺が幸せになれるように、とたくさんの愛がこめられたとびっきりのおまじないだ。大和にしかかけられないそのおまじないがいつも俺を守り、生かすのだ。

「おやすみカラ松」

子守歌のようなその囁きを最後に、俺はとっぷりと夢へ沈む。

rewrite:2022.02.24