回数制限のやさしさ
▼ 市原豊
何となくそのひたむきな姿にイラついてしまった俺は、ついついそこにあるバットを手に取ってフルスイングした。
我ながら惚れ惚れする美しいフォームのスイングをぶち当てられた、投球練習をしていたイッチャンが潰れた悲鳴と共に吹っ飛んでいく。
「イッチャンあそぼーぜ。暇なんだよ」
背中を強打したからかイッチャンは咳き込んだまま何も答えない。無視すんなよとバットの先端で軽く頭を小突くとぎろりと睨まれたが、涙目なもんだから全然怖くない。
「お、まえ、何なんだよっ!」
いきなり何すんだ怪我したらどうするなんとかかんとか。早くて何を言っているのか聞き取れないし耳元で叫ばれると普通に煩くて、
「うっせえ」
胸倉を掴むイッチャンを突き飛ばした。
またぎゃんぎゃん吠えるイッチャンに向けてバットを構えると、面白いほどイッチャンの顔色が変わる。
「あっ、逃げんなよ」
「おま、ほんとなに、俺何かしたかよ」
後退るイッチャンはちょっと泣きそうだ。
「何か心当たりでもあんの?」
適当な俺の返事を真面目に考えるイッチャンは素直というか馬鹿というか。まあ動かないでいてくれるのは的の意味では有難い。
イッチャンが練習に使ってそのままにしていた白球を拾いあげ、軽く投げてスイング。良い音がして真っ直ぐ飛んだ球はそのままイッチャンの米神辺りにヒットした。
ちょっと高すぎただろう、ダメだなやっぱり俺は。あんまり練習好きじゃないからってサボりがちだったけど、イッチャンを見習ってもっと真面目に練習しなくちゃいけないな、と白球の入った籠を引き寄せる。
「よし、イッチャン練習しようぜ!俺めちゃめちゃ頑張るわ」
痛みに蹲っていたイッチャンが俺の声に顔をあげ、バットと白球を持っている俺に絶望的な顔をする。
イッチャンのにこにこ笑ってる顔も好きだけど、俺はこういう顔も好きだ。でもまあ一番好きで気に入っているのは、
「かわいく泣けよ、イッチャン」
めそめそ泣いているかわいい顔なのだ。
rewrite:2022.03.05