星の座の夜
暗く沈んだ空のちかちか光る星たちに紛れて動くものが見えた。すいっと消えずに移動する光に、それが人工衛星だと気付く。流れ星かと一瞬思ってしまった。
もし流れ星だったら。
あまり星の見えない空から地面へと視線を落とし、ひとつの願いが浮かぶ。
「(薫君の幸せを、僕がつくれたら)」
まるで少女のようなことを考えてしまっている自分を心の中で笑い、また空を見上げる。薫君が小さな声で歌を紡いだ。片方の耳から流れてくるものと同じ軽やかな恋の曲だった。
それは彼がすきだと言っていたアーティストのもので、とても素敵だから聞いてくれと彼に言われたものだ。
はい、とバス停でイヤホンの片側を渡されたときはとてもどきどきしたし、今もまだ胸は高鳴っていた。バスが来たらきっとイヤホンは外されて、今は近いこの距離も少し離れてしまうのだろう。
片側から流れてくる曲とその向こうから聞こえる彼の歌声に意識を寄せながら、隣に感じる温度のことを考えた。
僕はいつまで薫君の隣にいられるのだろう。
僕と彼はただの友達だ。それなりに仲は良いと思うけれど、クラスが変わっても彼と関わりを持っていられるかと言われたら頷けないくらい、僕と彼の共通点はあまりにも少ない。
席が近くて、少し本の趣味が似ている、ただそれだけ。きっと別のクラスになったら薫君は僕のもとへは来ないだろう。
そう思うと胸が鈍く痛んだ。僕は彼の隣にいたいと思うし、クラスが変わってもこうやってずっと帰路を共にしたい。
曲はサビに差し掛かった。歌われる言葉はどれも輝いていて、こんなものを聞かせる彼に勘違いしそうになる。
もし僕が今ここで薫君にすきだと言ったら、彼はどうするだろう。ちらりと覗いた横顔はじいっと空を見上げていた。街灯の光が彼の瞳を輝かせるその光景に、ふと思った。
「(言ってしまおうか)」
後押しされたのかもしれない。曲にも、彼の瞳に浮かぶ星にも。
よくわからない衝動がじわじわと沸き起こってぐるぐる回る。曲はもう終盤に差し掛かっていた。
「(この曲が終わったら、彼に)」
rewrite:2022.03.10 | BGM:人工衛星 / やくしまるえつこ