蝶を結ぶシルエット
あのね、僕実は幽霊が視えるだよ。
心地良い風がゆったりと流れる中庭で、膝の上に弁当箱を広げた薫君はそう呟いた。
「ええと……」
なんと言えばいいんだろう、吃驚しすぎて言葉が出てこない。
どうしたのだろうか、また何かに感化されたか?
「嘘だと思ってるでしょ」
断定的な声音で彼は言い、拗ねたようにじとりと僕を見つめて唇を尖らせた。
「まあ急に言われても信じられないよね」
しかしすぐにふにゃりといつものように彼は笑って、そのまま食事に戻ってしまう。彼が卵焼きを頬張るのをただぼんやりと見つめているとまた彼が箸を止めて僕を見た。
「あのですね、実は就寝前になると霊感が通常の三倍になります」
凄いだろう、と自慢げにどや顔付きで言ってくる。
「赤くなりますか?」
「残念ながら」
「そうですか……。三倍になるとどうなるんですか?」
彼は少しだけ考えるように宙を見つめた後、ざっくり言うと会話が出来る、と言った。
「まあそれぞれの思いの強さというか、執着心というか、そういうものの度合いで少しずつ変わってくるんだけど、会話は出来るよ」
会話が出来るというのはなんだか不思議な感じだ。一体彼はそういったひと(?)たちと何を話すのだろう。
「例外でね、すごーく思いが強い人とは寝る前じゃなくても話せるし触れるんだよ。昼でも朝でも、いつでもね」
「視たことあるんですか?」
「あるよ。まだ一人だけだけど」
す、と目を伏せた彼が何かを言おうとして、やめる。箸の先でミートボールをつつきまた顔をあげた。
「もし僕が幽霊だったら、テツヤくんはどうする?」
黒曜石のように煌めく瞳がじいっと覗き込んでくる。
「僕は、テツヤくんが幽霊でもいいなあって思う。僕にしか見えないからちょっと嬉しいくらい。テツヤくんが幽霊でも、ずっと好きなままだよ」
柔らかく細められた目が少しだけ泣きそうに揺れている。なんとなく、彼がどうしていきなりこんな話をしたのか分かってしまったような気がした。
rewrite:2022.03.10 | BGM:ふしぎデカルト / やくしまるえつこ