泥濘の淡い暮らし
僕が泣くとテツヤくんはいつもとても困った顔をしながらも、一生懸命泣き止ませようと言葉を紡ぐ。
ああでもないこうでもないと色んな言葉を選んで、僕を傷付けないように注意を払って柔らかい言葉だけ渡してくれるのだ。面倒くさそうな顔なんてしないで、そうやって必死に慰めようとしてくれることが僕にはとても嬉しかった。
でも、いつの日か面倒そうに眉を寄せておざなりな言葉しかかけなくなって、その言葉もなくなって、ただ顔を顰めるようになるだけのときが来るかもしれない。そう思うとどうしようもなく不安になるし、悲しくなる。
僕はずっとずっと彼の胸の中で息をし続けていたいのだ。僕のせいで困ってほしいし、僕のせいでたくさん悩んでほしい。僕を中心にテツヤくんの世界が回っていたらなあとも思う。
けど、彼は僕のものじゃない。テツヤくんの隣は僕のものかもしれないけれど、だからといって彼自身は僕のものではないから思い通りにすることなんて、強制することなんて出来ないのだ。
「泣かないでください、薫君」
僕を抱き締める腕がゆっくり背中を撫でる。優しい声が一生懸命言葉を選んでいた。
「今日はどうしたんですか?」
肩に顔を埋めテツヤくんがくれる優しさをめいっぱい享受しながら、彼の背に回した腕に力を込め訥々と語った。
彼は僕の言葉を面倒がらずにきちんと全て拾い上げてくれ、まだ必死に僕を慰めてくれる。甘くて柔らかいものばかりくれる彼に、僕は今日もまた寄りかかってしまうのだ。
「ごめんね」
「どうして謝るんですか?」
「面倒ばっかりかけてるから」
「面倒だと思ったらこんなことしませんよ」
「ほんとに?」
「はい、僕が好きでやってるんです。だって泣いてる君を泣き止ませるのは僕の役目ですからね」
ああ、また彼は優しい言葉ばかり言う。
「それに、こうやって薫君が僕に頼ってくれるのはとても嬉しいんです」
だからたくさん泣いてもいいですよ、と微笑んだ彼にやっと安心して僕も笑った。
rewrite:2022.03.09