なまめかしい鋭利と寄り添って


「心は、」

黙々とページを捲っていた彼がふいに口を開いた。

「心は、どこにあると思いますか?」

紙の上を滑っていた水色のまあるい目の中にぼんやりと自分の顔が映りこんだ。彼のその何の感情も窺えないその目を見る度、僕は爬虫類を思い出してしまう。
ただ光を反射し煌めくだけで、何を考えているのか全く読み取れない無機質的な冷たさ。

「どこ、だろう……」

じいっと見つめられるのが少し怖くて、視線を下げた。

「考えたこともないなあ」

刺さる視線を感じながら、彼の質問について思考を巡らせる。
心。随分昔に読んだ本には、心というものは存在しないとあった。嬉しくてどきどきするのも、悲しいことに胸が痛くなるのも、全ては脳の作用によるものだと。
僕の返答を黙って聞いていた彼をちらりと見やる。変わらず突き刺すように僕を見つめていた彼は一度頷き、考えるように視線を落としてからまた目を光らせた。

「じゃあ、質問を変えます」

きらりきらりと美しく輝く瞳の奥に時折思い出したように彼の中身が顔を出す。けれどそれはいつも読み解く前に消えてしまうのだ。

「どこにあったら、いいと思いますか?」

きつく締め上げるような眼差しに動けなくなり、視線すら逸らせない。

「そう、だなあ……」

緊張と恐怖に声が微かに震え、背中を這う寒気に顔が引き攣りそうになる。

「僕は」

ふっと視線が柔らかくなり優しい微笑を浮かべた彼が、愛おしそうに僕を見つめた。

「心臓にあればいいなって、思うんです。心臓は大切な部分ですから、そこの中にあればいいって」

ゆず君はどうでしょうか。と笑みを浮かべたまま少しだけ首を傾げる。彼は一体何を言いたいのだろう、何を求めているのだろう。

「僕も、そうだといいって思うよ」

僕の答えに満足げに彼は頷いて本を閉じた。

「もしゆず君の心は心臓にあるなら、僕は君の心臓が欲しいと思います」

立ち上がった彼が何かを振り上げる。何だろうと思ってそれを目で追った僕の胸に、

「だからください、ゆず君の、心臓」

どすり。

rewrite:2022.03.09 | 元ネタ:黒子テツヤに殺されるbot様、女子高生に殺されるbot