薄霜色は呪いのかさなり


酷いんです、あの人、僕の気持ちに気付いていたくせに誰彼構わず愛想を振りまくんです。
にこにこ笑って優しくして、勘違いされてしまうって分かってるはずなのに偽物の愛をばら撒いて、そうやってたくさんの人から愛を捧げられながら、じいっと僕の反応を見ているんですよ。それから決まって嫉妬の炎に身を焦がす僕を見て、愉快そうに目を細めて甘美な笑みを浮かべながらごめんねって優しく言うんです。
酷い人なんです、彼は。
でも、僕は彼を愛せずにはいられないのでした。きっとそういう運命なんです、決まっていることだったんですよ、僕が彼に出会ったのも恋をしてしまったのも。

君」

でも僕にはそろそろ耐えられなくなってきました。彼は色々な人から愛を搾取するけれど、決して自分の心は渡さないんです。
奪ってみろとばかりに目の前でゆらゆらと揺らすけれど、絶対に触れさせはしない。届きそうで届かない、そんなところに置くのがとても上手でした。
いくら僕が彼を愛していても、彼は僕を愛してくれないのです。紛い物の愛は吐けども、本物を出すことはない、全く酷い人。

君」

もう一度彼の名を呼ぶと、今まさに階段を下りんとしていた彼がようやく振り返りました。聞こえていたくせに聞こえないふりをするなんて、なんて意地悪なんでしょうか。
彼は僕を見ると、いつものように柔らかく甘い笑みを浮かべました。

「テツヤくん、どうしたの?部活は?」
「これから行きます」
「そう、頑張ってね」

それに頷いたとき、その手に握られたものに気付いてしまいました。可愛らしい柄の素敵な封筒は、俗にラブレターなんて呼ばれるものなのでしょう。
彼は僕の視線に気付くと眉を下げわざとらしく困ったような笑みを浮かべました。僕の気持ちも何もかも知っているくせに。

君」
「なあに」

その華奢な肩を痛くないように優しく掴みました。

「君が悪いんです」

それから、突き飛ばしました。これでやっと、彼は僕のものになるんです。

rewrite:2022.03.09 | 元ネタ:黒子テツヤに殺されるbot様、女子高生に殺されるbot