音よりも速く響く
大切なものや好きなものがたくさんありすぎて、ときどき何もかも失ってしまうような気がして怖くなる。大切なものも好きなものも、どれもこれも壊れて失くなってしまいそうで、そうならないように大事に大事に丁寧に扱おうとしてもふとした拍子に手を滑らせて壊してしまいそうで、どうしようもなく怖くなる。
まだ昔、大切なものがひとつだけしかなかったとき、こんなことは思わなかった。そのたったひとつをしっかりと握り締めていたから、失くすことも手を滑らせることもなかったのだ。
でも今は両手では抱えきれないほど、溢れて零れて、割れてしまうほど大切にしたいことがある。どれひとつとしてどうでもいいものはない、僕には必要なものばかりだから、壊れてしまったとき僕は一体どうなってしまうのだろうか。
僕も壊れてしまうのだろうか。
「じゃあ、どれかひとつだけ、特別大切なものをつくってみたらどうですか?他のものが壊れてなくなってしまっても、それがあれば大丈夫だと言えるようなものです」
「どれも大切だよ」
「その中に、自分の命を引き換えにしてでも守りたいものはありますか?」
「……わかんない」
どれも大切で必要だけれど、そんな、自分の命と比べたことはなかった。壊れたら僕自身も壊れてしまうかもしれないと思うことはあっても、自分が壊れてしまってでも大切にしていたいものなんてわからない。
「テツヤくんはあるの?」
「ええ、ありますよ」
優しく目を細めて、陽だまりみたいに彼は微笑んだ。
ひどく大人びたその表情は見たことのないもので、彼が知らない人のように思えて寂しくなった。
こうして少しずつ彼と僕との距離は離れていくのだろうか。僕の大切で好きなもののひとつである彼がすっかり遠く離れてしまったら。そう考えると、すごく怖くなる。
「それは、なに?」
知ることは怖いけれど知りたいと思った。彼がそうまでしても守りたいと思ったものが。
眉を下げてまた優しく微笑んだ彼が、君です、と泣きそうになるほどあたたかい声で言った。
rewrite:2022.03.05