傷をつないでつくった話


美しい薔薇には棘がある。彼はそれこそ触れたら途端に皮膚が裂け血が出てしまうような鋭い棘を持っていた。
人を傷つけなければ生きていけない彼は血の海に溺れながらも、必死で息を吸い生き続ける。死んでしまいたいと泣き、その涙が赤に混じる様を見て顔を顰めてまた涙を流し人を傷つけるのだ。
彼を愛し彼に愛された人は皆彼に人生の全てを捧げ息絶えていく。彼の涙を拭おうと赤く汚れた体を拭おうと手を伸ばせば、瞬く間に切り裂かれ抉られ、縫い止められてしまう。愛する人を傷つけてしまう苦痛にまた彼は泣く。
こんなことしたくない、もういやだと嘆き、自分を責めながらも何も変わらない、変えられない。変えられる筈がないのだ、その棘は彼の体から生えているものなのだから。
削ぎ落とそうとすれば己の体が傷つき血が流れる。結局のところ自分がかわいい彼はそれが出来ずに、人を傷つける道を選ぶしかないのだ。

「わかってる、泣いたって何も変わらないことぐらい」

はらはらと涙を落とす美しい彼をそうっと抱き寄せる。
彼はお姫様になることを望んでいた。誰からも愛され、必要とされ、幸せそうに微笑む彼女に憧れていた。
彼の涙に震えた声がすぐ傍で聞こえる。
人を傷つけることしか出来ない、血に塗れたような人間の王子様になんて誰がなるというの、綺麗な硝子の靴なんて履けないし、毒林檎を食べてしまっても誰も助けてはくれない。僕を愛してくれる人なんていないのだ、こんな人間を誰が必要とするの?
じっとりと濡れた肩口が冷たい。彼のようだと思った。傷つくことを恐れすっかり凍り付いてしまった彼の心のようだと。

「大丈夫ですよ、ちゃんと、あなたを大切に思う人はいます」

僕がいるじゃないですかと、そう、言いそうになる。でもそれは言ってはならない。言ったら最後、彼は僕の傍にいてはくれなくなる。
僕を傷付けたくないなんて言って突き放されてしまうだろう。僕は彼になら何をされてしまってもいいのに。
そうっと回された腕は細く、棘に満ちていた。

rewrite:2022.03.05