枯れおちた花片ひとつ潰さずに
僕が傷をつくると彼はとても泣きそうな顔をしながら手当てをしてくれる。痛みを吸い取ろうとしているかのようなその優しい手付きについつい泣いてしまいそうになって、その度僕は泣かないようにただ笑うのだ。
そうすると彼は少し怒ったように眉を寄せて、それから今度は眉を下げて悲しげに息を吐く。
「テツヤ」
吐息混じりの微かに震えた声で、痛い?と巻いたばかりの白い包帯にそうっと触れながら彼は尋ねる。恒例となったそのやり取りに僕はただ微笑むだけだ。
痛いと言ったら彼が泣いてしまう気がして。優しい優しい彼のことだから。
「もう、やめようよ、テツヤ。自分を傷付けちゃだめだ」
震えた必死なその声に罪悪感が疼いた。
彼の言葉はいつだって真っ直ぐで、優しさや思いやりに溢れている。今の言葉だってきっと僕のことを必死に考えて悩んだ結果のものなのだろう。
ごめんなさい、と心の中で彼に謝罪を告げる。
ごめんなさい、あなたを騙すようなことばかりして。彼は僕がこんなことをする本当の理由を何一つわかっていなかった。
「テツヤ、俺じゃあ頼りないかもしれないけど、でも、」
一生懸命言葉を選びながらとぎれとぎれに言う彼が愛おしくてたまらなくなる。今すぐ抱きしめて、閉じ込めてしまいたい。
そうやってもっともっと、僕のことを考えて悩んでくれればいい。彼の頭が僕のことだけでいっぱいになって、他のことなんて考えられなくなってしまえばいいのに。
彼のあたたかい手のひらが僕の冷え切った手を温め、彼の体温が僕の中へ流れ込んでくるこの瞬間が僕はとてもすきだった。僕と彼の境目が曖昧になってひとつになってしまったような感覚が愛しい。このまま繋がったところからくっついて離れなくなってしまえば僕は彼とずっと共にいられる。
けれどそれは結局夢でしかなくて、だから彼の柔らかい部分に杭を打ち込んで鎖を繋げるしかないのだ。
「すきです、聖司君、僕のそばに、いてください」
ああ、君が僕以外の人間を認識できなくなればいいのに。
rewrite:2022.03.05