あなたは粉雪の匂いがする
笑った顔がびっくりするくらい綺麗で透き通っている子だと思った。僕らが大人になるにつれ失くしてしまった純粋さや純真さをまだ持っているかのような、真っ白で怖くなるくらい真っ直ぐなその笑み。
いつしか僕はその笑顔に惹かれるようになって、それをつくる彼に惹かれるようになっていった。当然の摂理のように惹かれ、落ちていったのだ。
そうして彼のそういった美しさの裏にはたくさんのひどく醜い傷跡があるのだということも知って、尚更彼が愛おしく思えはじめた。この人は僕が守らなくてはいけないなんて思ってしまうくらいに深く僕は彼へ溺れていったのだ。
彼を僕が幸せにしたいと、傍にいて支えてあげたいと強く思うようになって彼にそう告げたとき、彼は息が詰まるほど綺麗な笑みを浮かべて涙を零した。流れる涙を拭うこともせず、ただただ泣き続ける彼は小さな子供のようだった。
「水緒、散歩に行きましょうか」
あの日繋いだ手は、まだ離れることはない。これから先も離れることがないといい。
夜の散歩が好きな彼の腕を取り、生々しい傷跡を新品のガーゼで覆って隠す。傷が目に見えると彼は死んだように冷たい表情しかしないけれど、傷が隠れると途端に彼は幼い顔で笑い出すのだということは彼の手を取ってから知った。
三度の食事よりも夜の散歩が好きだということも、彼と手を繋いでから知った。
彼のことついて僕はまだまだ知らないことがたくさんある。彼が隠していることもまだまだたくさんあるのだろう。
それをひとつずつ、どんなに時間がかかってもいいから知って、共有したいと思う。少しでも長い間彼が笑っていられるように、願わくば僕の隣で微笑んでいてくれるように。
「テツヤくん、今日はお星様がたくさんみえるよ」
小さな金平糖を散らしたような夜空に、彼は楽しそうに目を細めた。
「そうですね」
夢をみているような不安定な足取りで僕の手を引き歩く彼の姿に、またたまらなく愛しくなって、繋いだ手を強く握り締めた。
rewrite:2022.03.05