まともな思考にさよならしよう


▼ 空条承太郎(三部のすがた)

大和はよく俺の目をじっと見つめてはうっとりと微笑み、綺麗だと溜息を吐く。甘いを持ったピーコックブルーをとろりと細め俺の目元をそっとなぞるのだ。
そうされる度にいつもこいつの方がよっぽど綺麗な目をしていると思う。

「綺麗」

微睡んでいるような声で言う大和に、ベッド脇の仄暗いランプの明かりで海のように揺れ煌めくこの目の方がずっと綺麗だ、とやはり思う。光の加減で深い青にも、眩いほど鮮やかな青緑にも変貌するそれは宝石なんぞとは比べ物にならない程美しい。
だから俺はいつも意味もなく大和の目を見つめてしまうのだ。今の大和のように。
ゆるゆると目尻を撫でていた指先を掴まえ、唇を寄せると剥き出しの肩がぴくりと跳ねた。指先を柔らかく食みながら首筋や鎖骨のあちこちに散らした鬱血を大和がしたようにゆるゆると撫でて辿れば、掠れた小さな声が零れ落ちてくる。
堪らないとばかりに瞳を薄く滲ませ、散々キスしたせいで少し腫れぼったくなってしまった熟れた唇を開いて、溜め息のような声で俺の名を呼び言うのだ。

「好き」

堪ったもんじゃない。
たった二文字にこいつはどれだけの感情を詰めれば気が済むのだ。甘く掠れたその言葉の持つ威力を、こいつはきっと知らないのだろう。その狂おしい程の愛で一杯になった目と声に、俺がいつだって殺されているなんてこと知らないのだ。
何もかもを滅茶苦茶に壊され引っ掻き回され、息の根を止められてしまう。たったの二文字だけで。

「……やれやれだぜ」

まだ少し汗ばんでいるくったりとした体を抱き寄せ隙間なくぴったりと肌を合わせれば、ひどく幸せそうな溜め息が聞こえた。回された腕が愛おしげに俺の背を撫でていく。
全く、この男はどれだけ俺を狂わせる気なのだろうか。抱き締める腕に力を込めながら、どんどんつくり変えられてしまっている自分を笑った。
きっと俺は、まるで底の見えない沼のような大和の愛に、ただ為す術もなく飲み込まれ死んでいく運命なのだろう。

rewrite:2022.02.16 | 文字書きの為の言葉パレット(@x_ioroi)「首筋・指先・熱」