なみなみと夢うつつ
知らない街をただあてもなくふらふらと彷徨い歩いていた。
白黒で構成された視界に、ああこれは夢の中なのかと気付いた。灰色の空を見上げ、モノクロの建物たちをぼうっと眺める。
なんとなく、この誰もいない空間に何度か来たことがあるような気がしていた。立ち並ぶ建物を眺めながら歩き、ふと覗いた路地裏を誰かが歩いている。
ゆったりとしたその足取りと真っ直ぐ伸びた背には見覚えがあった。見間違えるはずがない。
「大和」
けれどその人は、絶対に振り返らないのだ。水の中にいるようなひどい息苦しさに目が覚めた。
なんだか酷く嫌な夢を見た気がする。暗い室内にまた息が詰まり、まだ水の中にいるような感覚が消えない。
ゆっくりと深呼吸して目を閉じてみるけれど、ざわざわとした感覚は消えず眠気もやって来ない。どうしよう、大和は起きているだろうか、連絡したいけれどこんな真夜中だ。
ひゅうっとまた喉が鳴った。水の匂いがする。
じわじわと水が満ちていくようで上手く息が吸えず、ごぼりと口から酸素が逃げて水で埋め尽くされた。
苦しい、助けてくれ大和。
藻掻くように閉じていた目を開くと、滲む視界に誰かがいた。ゆらゆらと揺れる影が何かを言っているけれど、水に溶けた音は上手く拾えない。
集中してもくぐもった音はなかなか聞き取れない。もう少し、あと少し、
「征十郎」
はっとして目を開けた。背中に触れた熱にごぼごぼと水が抜け、急激に取り込まれた酸素に噎せて咳き込む。
大和だ。大和がいる。
「大丈夫、ゆっくり息を吸って……吐いて」
背中を撫でる手が優しくて安心する。
「……大和?」
「うん」
「何でいるんだ?」
「お前が泊まっていけって言ったんだろ」
忘れたのかと笑うって目尻の涙を拭ってくれた大和がごろりと隣に寝転がる。ぎゅうっと大和を抱き寄せると当たり前のように抱き締め返してくれた。
背中を撫でるあたたかい手の感触にゆっくりと息をして、目を閉じた。もう息は詰まらない。
ゆっくりと体から水が抜けていって、代わりに彼で満たされていく。静かにやってきた眠気に流されるように意識を手放す一瞬、水の香りが鼻を掠めていった。
rewrite:2022.02.16