昨日の傷を舐める


高校一年生の冬、征十郎は初めて敗北というものを知った。多分それからだ、僕と彼の関係が少し歪に変わってしまったのは。
彼はいつだって凛と真っ直ぐ前を向いて己が正しいという道を突き進んでいた。
けれどあの冬の日、彼は崩れて壊れた。他の人たちと同じように彼もその敗北を糧としようとしていたのは知っている。けれど出来なかった。
彼はあの日、もうどうにも出来ないほど粉々に砕けてしまったのだ。残骸。正にそれだろう。
右側にかかった重みに目を開ければ、先程まで向こうで日誌を書いていた征十郎が隣に座っていた。僕の肩に頭を乗せ、ゆっくりと息を吐き出し、メッキが剥がれていく。“赤司征十郎”としての美しい外側がはらはらと落ちていって、そうして現れるのは醜い何かだ。


「なに」

「うん」
「……

放り出された僕の手に彼の指が絡み付いてきた。彼はいつも僕の手をキツく握り締める。
昔のように優しく触れてくれることはきっともう二度とないのだろう。

「大丈夫だよ」
「うん」
「征十郎は間違ってないよ」
「うん」

なんて不毛なのだろう。
こんなどこにも行けない、辿り着けない会話を繰り返して一体何になる。彼が僕の隣にいるのは昔のような純粋な好意だけではない、僕ならどんな自分であろうと無条件に受け入れると思っているからだ。
揺らいでしまった彼にはもう何もないのだろう。だから、そうやって自分を正しいと言ってくれる存在がいないといけないのだろう。
可哀想な人、なんて愚かで哀れなのだろう。ぐずぐずに腐敗して、悪臭すら放っていた。

、」

その後に続く言葉はなんてもう分かり切っている。

「すきだよ」

擦り寄って、縋るような震えた声で紡いでみせるのだ。
でも僕はそれすら計算で、ただ僕を離さないだけの言葉であると知っていた。けれど僕は彼から離れることなんて出来やしないのだ。
このどうしようもなく愚かで哀れな人を、馬鹿馬鹿しいことに愛してしまっているのだから。
ああ、なんて笑える話だろう。

rewrite:2022.02.14