くずれていく神話


※赤司くんの双子兄主人公

「僕は兄を心底愛していました。兄は僕の全てであり人生そのものですらあった。僕は兄がいればそれだけでもう満ち足りていて、それ以外は何も必要ではありませんでした。兄もまた僕と同じだったはずです。僕たちは二人だけのルールをつくり、二人だけの世界をつくっていきました。でも高校に入った頃から兄は変わってしまったのです。僕と兄は同じ高校に進学しました。そういう約束をしていましたし、そもそも離れるという選択肢はなかった。……それで、……進学して三ヶ月程経った頃から兄は僕とのルールを無視することが少しずつ増えていきました。一緒に過ごす時間もどんどんと減っていって、半年経つ頃にはもう兄は僕のことなどちっとも見なくなっていた。兄は、……兄は僕ではない人間と時間を共にするようになっていたのです」

窓越しに伝わって来る重く湿った不穏な空気に、神父は静かに息を呑み、浮き出てくる汗を拭った。
聡明さを感じさせる落ち着いた青年の声は、淡々と、滔々と話を続ける。

「僕は兄に何故、と問いました。何故僕以外の人間といるのか、何故約束を破るのか。兄はなんてことないような顔で、僕と居るよりそいつと居る方が楽しいからと言いました。何を言われたのか僕にはよく分かりませんでした。僕と兄は楽しい楽しくないで一緒にいた訳ではないのに、僕と兄は互いが全てで互いが世界そのものだったから、だから一緒にいるのが当然で……そんな、馬鹿みたいな理由で傍に居た訳じゃないのに、兄はそんな愚にも付かない理由でもって僕を遠ざけようとしたのです。だから僕はそれが兄の本心ではないと思いました。なにか抜き差しならぬ事情があるのだと思いました。でも違ったのです、兄は本心からもう僕を必要としていなかった。知らない人間が僕と取って代わっていたのです。僕と兄の世界は壊されてしまったのです、他でもない、兄の手によって……だから僕は、兄を殺めました」

毒々しい笑みを含んだ満足げな声が静かな室内に響く。

「これ以上僕と兄の世界を壊されてしまわないように」

rewrite:2021.12.25