ghost fragment
※赤司くんの双子兄主人公
嵐の夜には誰かがここから連れて行かれる。
十一年前の春、八年前の冬、それぞれ僕の父と母が嵐の晩に消えた。残された僕と僕の兄は親戚へ引き取られ、高校への進学とともに京都へ出るまでその家で過ごした。
僕も兄も同じ学校に進むことにしたのは、どちらもたった一人の家族の傍を離れたくなかったからだ。京都に越してからも幾度か嵐に見舞われ、その度に僕らは互いを決して失わないよう手を握り合い小さなベッドで寄り添い眠った。何もかもを飲み込み連れ去ろうとする激しい雨風に怯えながらも、僕も兄も無事であった。
しかし一年前の夏、嵐の晩、僕の唯一の肉親であった兄が消えた。
一人では広すぎる部屋でただひとり嵐に怯える僕のもとへその手紙が届いたのは、兄が消えてから1週間経ったよく晴れた日の午後のことである。
見たこともない差出人の名、だが宛名は僕であった。不信感を募らせながらも開封すれば中には三枚の白い便箋が入っており、その内容は嵐の晩のことについてである。嵐の晩に連れ去られた者を連れ戻す方法、端的に言えばそのような事が綴られていたのだ。
連れ戻す方法は嵐の晩に容れものを用意して雷光を待つ、たったそれだけだった。だがそれは容易いことではない。兄に見合うだけの容れものがなかなか見つからないのだ。
やはり出来合いのものを使おうとしたのが良くなかったのだろう、それから僕は地道に少しずつ少しずつ、兄の器になり得そうなものを集め繋げていった。試行錯誤している内に一年が経ち、昨晩、漸く器が出来上がった。
そして今晩、嵐は来る。やっと愛する兄に僕はまた会えるのだ。
「どうか、上手く行きますように」
不穏な風が窓を叩き、この世の全ての悪意を集めたような雲がゆっくりとこちらへ流れてくるのが見えた。兄となるモノの前に座し氷の手を握り締める。
雨が降り出した。そこかしこの窓が礫をぶつけられた様な音を立てる。
もうすぐ、雷が鳴り出すだろう。
「皇一郎」
すぐ傍に兄がいる気がする。そして稲光が部屋を照らした。
rewrite:2021.12.25