誘惑のスイートタイム
征十郎の目はいつもきらきらしていて、美味しそうだとよく思っていた。黙々と駒を進める征十郎の伏せられた睫毛の下、左右で色の違う瞳が盤上を行ったり来たり。
赤くてツヤツヤした色は林檎、いや苺だろうか、苺の方が甘そうでいい。そして金色は甘くて美味しい蜂蜜だ。
肘をついてじいっと飴玉みたいなその色を見ていると不意に彼が視線をあげ、光を受けてきらりと光ったその目にごくりと喉が鳴ってしまった。やっぱり美味しそうだ。
「どうかしたかい?」
覗き込むように少しだけ首が傾けられ、またきらきらと瞳が光る。
「いや」
「本当?何か言いたそうだと思ったけど」
「ん~しいて言えば腹が減ったかな」
「さっきクッキー食べてなかった?」
「食べた」
「まだ何か食べたいのか?」
「うん」
困ったような呆れたような、不思議な顔をした征十郎は何かあったかな、と鞄に手を突っ込んだ。
まあ確かに腹は減っているし何か食べられるならありがたいけれど、俺が今欲しいのはそういうのじゃなくてそのきらきらと光る赤と金なのだ。
「あのな、征十郎」
「ん?」
「そういうのよりも征十郎がいい」
「……は?」
おっと言葉が足りなかった。
何を思ったのか考えなくても分かる、じわっと薄紅に色付いた頬に笑みが深まる。
「征十郎の目、食べてみたいな」
血色の良くなっていた頬が一瞬にして青褪めた。
「え、と、……大和?」
「なに?」
「それはどういう意味?」
「そのままの意味だけど。嫌か?」
「いや、嫌とかの問題じゃないだろう」
「じゃあ舐めるだけ」
視線があちこちに飛ぶ彼の頬を押さ視線を合わせると、びくりと大袈裟に肩を震えた。
「な、だめ?」
「り、理由を聞いても?」
「甘くて美味そうだったから」
にっこり笑えばつられたように彼も笑ったけれどそれは一瞬にして引き攣ったものに変わった。
「大和、落ちついてくれ、やめっ」
もうぐだぐだうるせえからいってしまえ、と頬を押さえた手で下瞼を引き、彼が抵抗する前にべろりと舐めあげる。
ふむ、思ってたよりも甘くはない。
rewrite:2021.12.23