絡まりたゆたう花片の下
※大正ロマン(??????)的雰囲気パロ
そ、と触れた唇の柔らかさ。恐る恐る撫でた頬の温度、長い睫毛の描く陰影。深く煌めく赤き双眸、白磁の肌、燃ゆる赤毛と麗しき微笑。愛していると言ったあの甘やかな声と絡む視線に隠された熱に、震えた身体を思い出す。
ああ、でもいくら思い出せども、あなたは今ここに居ないのだ。なんと悲しいことでしょう、あなたの消えたこの世の冷やかさに僕は毎夜涙を流さずにはいられない。
人はあなたが消えたことを面白おかしく脚色し、あることないこと騒ぎ立て嗤う。あの誰よりも気高く何よりも美しかったあなたを、醜い人々が嗤うということに僕はとても耐えられなくて、だからこうして誰とも顔を合わさぬようあなたが残した屋敷に籠るのだ。
きっとあなたはただ微笑むのでしょう、言いたいように言わせておけばいいとただただ優美に笑むのでしょう。あなたが今一体どこに居られるのか僕には想像も出来ない。
けれど必ず迎えに参ると言ったあなたの言葉を信じ、それを支えに今日も日々諾々と無為に過ごすのだ。
「失礼いたします」
開いた襖の向こうに目をやる。
「どうしました」
「薫様にお客様がお見えです」
「どなたですか」
「それが……これを見せればわかる、としか」
そっと置かれたのは鮮やかな緋色の扇、これを持つ人は一人しかいない。かっと胸に火が付いたような熱さを感じ、書きかけの文も捨て置き飛び出した。
驚くように振り返る使用人達の合間を縫い応接間に飛び込めば、上等な黒いスーツに身を包み帽子を深く被った者が一人、悠々とソファへ腰かけている。組まれた長い足がゆるりと解かれその人は立ち上がり僕の前までやってきた。
「やあ、薫」
「……征十郎様?」
「ああ。随分待たせたね」
すっと流麗な仕草で帽子を取ったその下には、あの美しい微笑みが浮かべられている。
「貴方を迎えに、いえ、攫いに参りました」
芝居掛かった仕草で礼をし手の甲に唇を寄せる。触れたその柔らかさと熱に震えが走った。
「本当に、これからは共に過ごせるのですか」
僕の問いに彼は笑み、言っただろう、と赤い双眸を煌めかせる。
「お前を攫いに来た、と」
rewrite:2021.12.22