月を満たす繭


※赤司くんの双子兄主人公

夜が嫌いだった。
夜になると考えなくていいことまで考えて思い出さなくていいことまで思い出してしまうし、あまりに静かすぎる。誰もが眠ってしまって死んだような静寂が怖かった。

「俺はすきだよ」

真夜中、細く薄い月明かりだけでは何もかも薄らぼんやりとしか見えない部屋で、僕の手を柔らかく包みこんだままのが笑う。

「静かだから、いつもは聞こえないものもちゃんと聞こえるだろう?」

すぐ目の前にある僕と同じ色の瞳が優しく細められた。

「でも、聞きたくないものまで聞こえてしまう」

僕の小さな声を掻き消すように強い風が窓をがたがたと揺らす。
一瞬どきりと跳ねた心臓のこの音も彼には聞こえているのだろうか。眠たげにゆっくりと瞬きを繰り返していた彼も、とうとう目を閉じてしまった。細く吐き出された息が首筋を掠めていき少しくすぐったい。
が黙ってしまえば、本当に何の音もなくなる。ただ窓の外で荒れ狂う風の音と自分の呼吸音、鼓動、それから時計の針が進む大きな音。
閉ざされた瞼の縁を彩る睫毛をぼんやりと見ているとだんだん恐ろしくなってくる。いつもは考えないようにしていることたちがゆっくりと頭を擡げはじめ、息が詰まる。
ぐっと瞼を強く閉じても眠気などやってこないし思考も止まらない。何をそんなに脅えているのか自分でもよくわからないけれど、恐ろしくてならなかった。
そっと目を開けて見ても彼の目は閉じられたままで、本当に眠っているだけだろうかという考えが過っていく。そうして蓋は開けられ、考えてはならないと思えば思うほど次々溢れてくるのだ。小さく吐いた息は細かく震えていた。

「大丈夫だよ、征」

ふいにルビーの瞳が現れて包みこまれていた手が強く握りしめられた。

「何も怖いことなんてない、大丈夫」

僕の手を握っていた手が離れ、背中へ回される。
そして抱き寄せられるままに胸へ頭を寄せれば緩やかな心音を聞こえてきた。それを聞いていると少しずつ恐ろしさが薄れていって、ゆっくりと呼吸が出来る。
何をそんなに脅えていたのか不思議になるほど、今は安堵に満ちていた。

rewrite:2021.12.22