胸が綿菓子みたい


冬の凍った空気を取り込んだ肺がその冷たさに一瞬震える。気管まで凍ってしまいそうなくらい寒くて、ぐるぐるに巻いたマフラーを鼻まで引き上げポケットのまだ温まり切っていないカイロを握る。
門を抜け最初の交差点へ着いたとき、とんっと軽く肩を叩かれた。振り返ると息を弾ませた聖司が「おはよ、赤司」と片手をあげた。

「ああ、おはよう。走ったのか」
「おう、赤司見っけたからすげえ走った」

人懐っこい子供のような彼の笑顔は見る者の心を緩める効果でもあるのか、僕は彼が笑うといつもつられて笑ってしまう。

「赤司、今日はもう誰かに会った?」
「いや、会ってないけど?」
「電話とかメールとかは?」
「別にないけど……」

何が聞きたいのだろう、と目の前のどこかそわそわと落ち着きのない顔を見上げる。聖司は少しだけ考えるような顔をしたけれど、一度頷くとぱっとまた笑った。

「そっか、俺が一番か!」
「は?」
「赤司誕生日おめでと!やっと十六歳だなー」

なははと笑う聖司を見つめる僕の顔は随分間の抜けたものだったろう。彼に言われるまですっかり忘れていた。

「……ありがとう」

にこにこ笑う聖司の目がひどく柔く優しげで落ち着かなくなりなんだか照れてしまって、彼の顔から目を逸らし前を向いた。カイロを握る手がじっとり汗ばんでいる。

「それでですね、色々考えたんだけど俺、赤司が欲しいもんとか全然わかんなくてさ。よかったら日曜日、どっか出掛けない?」

少し自信なさげ眉を下げ、窺うように首を傾ける。時々計算なんじゃないかと思ってしまうくらい彼は人の心を揺り動かすのが上手い。
いや、まあ単に惚れた弱みというやつかもしれないけど、だとしたら我ながら随分ご執心なことだ。いいよ、と頷くと聖司はぱっと目を輝かせにこにこ嬉しそうに笑った。

「あ、根武谷先輩からめちゃくちゃ美味しい和食の店教えてもらったからそこも行こうぜ」
「ああ、楽しみにしとくね」
「赤司」
「なに?」
「ありがと」
「……こっちの台詞だよ」

はは、と少し赤い頬で笑う彼につられて、また僕も笑った。

rewrite:2021.12.22