愛してるを傷にしたい


すき、とが度々音にするそれはどんな言葉よりもじんわりと俺の中に沁み込んで、ほろほろほどけて全身を巡ってあたためてくれる。
けれど言葉を口にしたは俺とは反対に、いつもどこか苦し気な顔した。どうしてか尋ねても彼は何でもないとしか答えてくれなかったけれど今なら、あの時よりもずっとお互いを知った今ならばきちんと答えてくれるような気がして沈む瞳を覗き込んだ。

「どうしてそんな顔をするんだい」

すっかり冷たくなってしまった頬を手のひらで包めば少しずつ熱が移って、じんわりと彼の柔らかな頬があたたかくなっていく。

「……嫌いにならない?」
「ならないよ」
「本当に?」
「本当に」

数度瞬いてから彼はゆっくりと口を開く。

「すきって言うと、その度思うの」

不安げな顔をしているのにその声は突き刺さるようだった。一切ぶれることのない強い力を持ったそれはよく研がれた刃物に似ている。

「征十郎くんの耳を切り落として、塞いでしまいたいって」

僕の声が最後になって残ればいいのにっていつも思う。僕があなたの最後になればいいのにって。だから本当は瞼も縫い付けてしまいたい、最後に見るのは僕だけでいいから。

「ねえ、嫌いになった?」

そう問うの声は打って変わって震えて掠れていた。泣きそうなその顔を見て嫌いになった、なんて言えるわけがない。
惚れた欲目かはたまた弱みか、彼の重苦しいほどの愛もそれだけ想われている、と感じてしまう。

「なってないよ」
「本当?」
「本当」

むしろ君がそこまでこんな俺を好いてくれていて嬉しい。そう言えば、彼はとびっきりの笑顔を見せてくれた。

「じゃああのね、約束して」

可愛い彼の願いに何も考えずに頷いたこの時の俺をぼこぼこに殴ってやりたい。

「僕以外の人を見ないで」

僕以外の人に話しかけないで、僕以外の人に触れないで、僕以外の人のこと、考えたりしないで、

「破ったら、殺してやる」

弓なりになった目の底冷えする光に冗談だろうと笑えなくなり血の気が引いた。
それだけ想われているだなんて暢気に喜んだの少し前の自分に今すぐ逃げろと伝えたい。これは、そんな生温いものじゃないぞ。

rewrite:2021.12.16