春が来るのはあなたのせいです
ちゃんと褒められたことなんてないんじゃないかと思った。
あいつの家庭環境はあまり詳しく知らないけれど、多分、出来て当たり前のような環境で育ってきたんじゃないだろうか。すごいとか、天才とか、そういう称讃は嫌という程浴びてきただろうことは容易に想像できるけれど、頑張ったななんて言われたことないのではないだろうか。
何でもない顔をしてさらりとやってのけるその影に、多くの努力があることを知ろうとするものは少なく、だから誰もが才能の一言で片づけようとしてしまうのだ。
もともとの才能もあるのだろうけれど、それを削って磨かなければ光ることはない。そんな当たり前のことをどうして誰も理解しようとしないのだろうか。
凛と真っ直ぐ伸びた背を見つめる。あの細い背に、一体どれだけの期待と圧力がかかっているのか知る人はほとんどいないのだろう。
人を頼ることのないあの背は、きっと甘えることも知らない。そう思うと少し寂しくなって、胸の辺りがちくちく痛んだ。
そんなことをぼんやり思いながらじいっと見ていたからか、ふいに赤司が振り返った。強く真っ直ぐな赤い瞳が刺さる。
「何かありましたか、先輩」
俺の傍へやってきた彼が何か不備でもあったのか、と問いたげな目でちらりとボードに視線を落とす。
「いや、何にも。皆タイムも上がってるし、体力も夏前と比べたら増してる。まあ今年も優勝できるだろうよ」
「そうですか」
ボードの数字を目で追うその表情は変わらない。努力するのは当たり前だと思っているその目。
でも違うのだ、そこまでの努力を出来るのは普通じゃない。当たり前じゃない。どうにもやっぱり淡々としたその顔に堪らなくなって、目の前の赤い頭に手を乗せた。
「頑張ったな、お疲れさま」
まだ何も終わっていないけれどその頭を犬でも撫でるようにかき混ぜた。
「な、」
目を見開いて俺を見上げた彼の頬がどんどん赤くなっていく。何かを言おうとしたのか口を開いて、けれど何も言わずに俯いたその耳は見たことないほど真っ赤で、あまりの可愛さに抱き締めたくなってしまった。
rewrite:2021.12.14