混ざり合って群青


時折ふっと身体が軽くなる。屋上から飛んだようにふわりと、崖の上から滑り落ちたように不意に、浮くのだ。
そういう時はいつもとても大きな不安と孤独を感じる。この広い世界に自分たった一人だけになった気分になる。どうせこの世で人は一人きりで生きていくのだとどこかの誰かが言っていたけれど、それはあまりにも寂しいと思うのだ。
僕はどうしたってひとりでなんて生きていけない。誰かが足枷となってここに繋ぎ止めておいてくれないと、僕は駄目なのだ。じゃないと本当にふらりと落下して消えてしまいそうで、怖くなる。
ふわりと足が浮く。嗚呼、僕をここに繋ぎ止めてくれるものは今はなく、ただ軽くなった身体が浮いていく。
怖くて寒くて、目を閉じた。薄れた聴覚が何かの音を拾い上げる。
と、次の瞬間にはぐっと痛いほどの力でキツく手首を握り締められていた。急に身体が重みを持って地に落ち、冷たく硬いものを背中に感じて目を開けた。

「大丈夫か」

覗き込む赤い瞳に頷き、ゆっくりと息を吐いた。
僕の枷となってくれるただひとりの人。温かな手が滑って、手首から手のひらへと握る場所を移す。確かな感触と温度になんだか無性に泣きたくなって、強く目を閉じた。
小さく息を吐くような音と共にさらりと手が離れ、優しいにおいが身を包む。

はちゃんと、ここにいるよ」

背中に回された腕が宥めるように背を叩く。
耳をつけた彼の胸から心臓の音が聞こえて涙が溢れた。渦巻いていた不安と孤独がさらさらと崩れ流れていく。

「俺もここにいるから、何も怖がらなくていい」

怖がることなど何一つないと囁いて強く抱き締めてくれる。この瞬間を迎えるたびに、僕はいつも夢見てしまうのだ。いつか彼がこの世から消えてしまうまでずっと傍にいて、繋いでいてくれるのではないかと。
彼がいなくなったらきっと、僕は飛んで消えてしまうのだろう。
嗚呼、と僕は思うのだ。嗚呼どうか、このまま不幸など訪れませんように、と。

rewrite:2021.12.12