いい加減になる指先
先日知人の葬式があったのだが、どうやら俺はそこで妙なものを引っ付けてきてしまったらしい。
「あ、おかえり。今日は遅かったね」
テレビの前のソファに三角座りした浴衣姿の少年が、戸口に立った俺を見て笑った。
妙なものというのはこれだ。俺は結婚もしていなければ当然子供もいない。現在ルームシェアなんぞしていない一人暮らしだし、友人が泊まりに来ているわけでもない。
よってこの家には俺しかいないわけで、不法侵入でもなければ人がいるわけがないのだ。だがしかし、
「ねえケーキ買ってきてくれた?」
いるのだ。そう、つまり幽霊ってやつである。
「……ああ」
このおそらく十四、五歳と思われる少年は、先日の葬式から帰ると何故か我が物顔でソファの一角を陣取っていたのだ。
おかえり、とまるでここが自宅のように振舞われたあの日の俺の気持ちが理解出来るだろうか。いつも室内は妙に寒い上に薄暗いし、少しでも機嫌を損ねればここはシベリアかと思う程の極寒にされ、引っ越しや除霊を行おうとすればホラー映画も真っ青な刃物オンリーのポルターガイストを起こされる。
そんな俺の気持ちが理解出来るだろうか。
「美味しい!」
それでもこれが座敷童子だというならばまだ耐えるが、これはそんなものではなく、その辺のよりちょっと力がある上に少々性質の悪いただの幽霊なのだ。
ぱくぱくと買ってきたケーキを食べる(一体あのケーキはどこへいっているのだろうか)幽霊を横目に、今しがた淹れたコーヒーを一杯呷る。これをなんとかできないだろうかと悶々と考えたところで、ふと以前昔のチームメイトが言っていた『霊にはファブリーズなのだよ』という言葉を思い出した。
やるだけやってみようかな、とファブリーズを取り極々自然な動作で吹き付けた。
「ちょっとなに!?今ケーキ食べてるのに!」
むしろ逆効果だったんですけど。
降り注ぐ刃物を避けながら、一体こんな毎日はいつまで続くのだろうと痛む頭で溜め息を吐いた。
rewrite:2021.12.12