もっと先の未来、或いはすぐ側にある過去
彼が何を言っているのか理解出来なかった。間抜けな顔をして、え?と馬鹿みたいに聞き返せば彼は淡々と繰り返す。
「だから、飽きたって言ってんの」
ひどくつまらなさそうに溜め息を吐く様は今までも何度か見てきたけれど、それが僕に向けられるなんて思ってもいなかった。
「なんかつまんない、征十郎くん。何でもかんでもはいはいって僕の言うことに従っちゃってさぁ、つまんない」
冷えた眼差しと面倒くさいと言いたげな表情、言葉。ひとつひとつが的確に心の柔らかい部分に刺さって抉っていく。
彼の言っていることを理解しようとしても、脳がそれを拒んでいた。
「どういう、ことだい……?」
「どういうって、だからさあ、別れよってこと」
僕も征十郎くんと一緒にいたくない、なんて軽く言って首を傾げてゆっくりと長い睫毛を上下させる。相変わらず美しいその所作にほうっと見惚れかけて、はっと意識が引き戻された。
別れる?一緒にいたくない?彼は、そう言った?
「じゃあ僕戻るから」
一方的に現実を叩きつけ、僕の感情などには見向きもせずに彼は背を向けた。彼との繋がりが引き千切られていく。
「待って、」
どういうこと?もう僕のことはすきじゃないってこと?つまらないって何?意味がわからない、何が駄目なのかもっとちゃんと、わかるように言ってよ。
「待って、薫」
揺れ遠ざかる腕を急いで掴んで彼を引き止めようとするけれど、たった一言「離して」で全て消える。手のひらから抜かれた腕と共に、彼と過ごした時間や積み重ねたものも何もかもするすると落ちていく。
嘘だ、だって、彼は、僕をすきだと言っていたじゃないか、そんな素振りちっとも、なんで、なんで、
「薫っ」
追いかけようとした足は縫われたように動かない。
ああ、一体どうして。彼がいない世界で、僕はこれからどう生きていけばいいというのだ。
開くその距離に声を張り上げても彼が振り返ることはなく、きっとこれから彼が僕を見ることはもう二度とないのだと解ってしまった。
「置いてかないで」
あまりにも頼りないその音は、彼に届く前に潰える。
rewrite:2021.12.12