絡まったり解けたり
※助手が優秀なタイプの探偵パロ
水の中では何の音も聞こえない。耳鳴りのような、自分の体内から鳴る音だけが轟々と響いている。胸を圧迫されているような息苦しさ、逃げていく酸素、朦朧としだした意識の中で、いくつもの記憶が通り過ぎていく。
倒れたコップ、泥、うろつく足跡、劈くような酷い絶叫、赤い地面、花、破片、それから―――、ざばりと思い切り引き上げられる。
急に入って来た酸素に思い切り咳き込み、生理的な涙が浮かぶ。
見上げれば険しい顔をした赤司さんがいた。赤い目がきつく光り、唇は引き結ばれたままで何も言わない。痛いくらいの力で腕を掴まれたまま、やや広すぎる浴槽から引っ張り出されてしまう。
大きなバスタオルを掛けられそのままずるずると引っ張られていく。バスタオル一枚だというのに部屋が暖かいからか寒さは感じない。いや、そもそもあれだけ水に浸かっていたのだ、何でも暖かく感じるのだろう。
怖い顔のまま赤司さんはキッチンへ消えていった。まだスーツ姿のままの背をぼんやりと見送ってから、鈍重な動作で服を纏い濡れた髪を雑に拭きソファへ腰かけた頃、赤司さんがマグカップを片手に戻って来た。
無言で手渡されたカップの中身はホットミルク。礼を言って一口含めば仄かな蜂蜜の甘みが広がった。
「ちゃんと拭かないと風邪引くぞ」
溜め息を吐いた赤司さんはまだ水の滴る僕の髪を丁寧に拭き直し始める。
「あ、すいません」
「ゆずのそれ、どうにかならないのか」
赤司さんの言うそれとは、水風呂のことだろう。
「いい加減にしないと死ぬぞ」
「大丈夫ですよ」
「そう言って前病院送りになっただろう」
「……すいません」
深い溜め息。危険なのは分かっているけれど、あれじゃないと駄目なのだ。ああやって全てを遮断してあらゆる境目を無くさなければ。
デュパンでもホームズでもない僕には、そうでもしないと答えが導き出せない。
「けど、ちゃんと犯人、解りましたよ」
呆れた顔の赤司さんは頷き、「出来ればもっと平穏に謎解きしてもらいたいものだ」と笑った。
rewrite:2021.12.12