果てがどこかにあったとしても


「もし明日、俺が死んだら赤司はどうする?」

僕が部誌を書いている間に帰り支度を終えた聖司がふいにそう言った。
振り向いて見れば、彼はベンチに寝転がったままの姿勢でこちらを見てなどいない。手のひらから落ちたボールが音を立てながら部室の端まで転がっていく。

「何だ、いきなり」

部誌に向き直り再び手を動かす。誰かに何かを言われたのだろうか、今日は玲央と長話をしていたしそれかもしれない。

「今日、玲央先輩と話してたんだけど」

どうやら予想は的中したようだ。

「もし明日、大切に思ってる人が死んじゃったらどうする?って話になって」
「へえ、聖司はなんて答えたんだ」
「俺は普通で無難な答えを出したよ、悲しいって」
「ふうん、味気ないね」
「だろ。でもさ、実際そういう場面になんないとわかんねーし。ていうか、そういうことはあんまり考えたくないんだよな。赤司ってなんか、すぐ死んじゃいそうで怖いし」

ふうっと彼が息を吐く音が聞こえる。
死にそうで怖い、なんて初めて言われた。僕はべつに病弱でも虚弱体質でもない至って健康体だし、それなりに鍛えている分その辺の人間よりも多少丈夫な方だろう。
聖司の言葉が不思議でペンを置いて椅子ごと振り返れば、丁度彼も身体を起こしたところだった。

「どうしてそう思うんだ?」

感情が表に出やすい彼にしては珍しく、何を考えているんだかわからない目をしていた。

「赤司って、希薄っていうか、ここにいない感じがするんだよ、時々。だからかも。目離したすきにいなくなってそう」

ぐっと眉間に皺を寄せた彼のその言葉に、かつてのチームメイトを思い出した。

「俺は赤司がいなくなったら寂しいし悲しいし、嫌だなって思うよ」

上手く言葉に出来ない、と歯痒そうに顔を顰める彼が何を伝えたいのかいまいち汲み取り切れない。しかし、なんとなくだけれど解った気がする。

「馬鹿だな、僕がそうそう死ぬわけないだろう、お前の面倒も見ないといけないんだから。だから心配いらないよ」

温かい手に触れれば、安心したように彼は少しだけ笑った。

rewrite:2021.12.12