朝のまなざしの感光
※赤司くんの双子兄主人公
※中村明日美子先生の『perfect world』パロディ
いつもと変わりのない朝、朝食の席に着いた赤司皇一郎の左手にぽつんと咲いたカランコエに似た小さく赤い花だけがいつもとは違っていた。
その花がここ最近流行している『花咲クル病』という、徐々に花が増えて意識は朧になり眠るように死に至る、治療薬もまだ開発されていなければ完治した人間もいない不治の病に罹患した証であるとは誰の目にも明らかである。
家の人々が絶望に顔を青褪めさせ泣き喚く中、赤司征十郎は己が兄の手に咲く花の楚々とした可憐さに目を奪われていた。
「かわいい花だね」
あちこちに電話をかけている父やさめざめと泣く使用人たちには聞こえぬよう、ひっそりとした声で皇一郎に囁いた征十郎はそうっとその花を指先で撫ぜた。
「ふふ、そうだろ」
俺とお前の色だ、と柔く笑った皇一郎に征十郎も小さく笑みを返す。
「僕には咲いてないのかな」
「うーん、今見えるとこには見当たらないな」
「……」
「……」
二人はじっと花を見つめた。
「感染経路って不明なんだっけ」
「何もかも不明らしいけど、試す価値はあるかも」
その日、二人だけの習慣がひとつ増えた。
「おやすみ、皇」
「おやすみ、征」
触れ合うだけの優しいキスをして、
「では」
「どうぞ」
パジャマの上着を脱いだ皇一郎の右の鎖骨から咲いていた花をぷちりともいで征十郎は口に含んだ。
そうして肩や胸、背に咲く花を次々と飲み込んでいく。
「なかなか咲かない」
「大丈夫だよ、置いてかないから」
あの日から毎晩、征十郎は皇一郎に咲く花を飲み込んでいた。けれど彼に花が咲くことのないまま、皇一郎の症状ばかりどんどん進行していく。
そうしてふた月が経つ頃、花が咲かないままの征十郎を置いて皇一郎は眠るように死んだ。
「置いていかないっていったくせに」
彼自身のベッドへ横たえられた皇一郎の頬にぽたんと征十郎の涙が落ちる。
その時、不意に彼は胸の辺りに違和感を覚えた。何かが触れているようなくすぐったさ。征十郎はすぐ後ろに居た父に一言告げると自室へと駆け込んだ。
予感がしている。
逸る心を抑え震える指先でワイシャツの胸元を開けば、心臓の上、カランコエに似た小さい赤々とした花が、一輪、顔を覗かせていた。
rewrite:2021.12.12